シクレソニド: Ciclesonide)は、喘息(ぜんそく)アレルギー性鼻炎の治療に使用される糖質コルチコイドである。糖質コルチコイドは副腎皮質ホルモンのひとつで、副腎皮質ホルモンはステロイドホルモンに属している。

シクレソニド
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
Drugs.com monograph
MedlinePlus a607008
胎児危険度分類
法的規制
データベースID
CAS番号
126544-47-6 ×
ATCコード R01AD13 (WHO) R03BA08 (WHO)
PubChem CID: 6918155
IUPHAR/BPS英語版 7469
DrugBank DB01410 チェック
ChemSpider 5293368 チェック
UNII S59502J185 チェック
KEGG D01703  チェック
ChEMBL CHEMBL1201164 ×
別名 (11β, 16α)-16, 17-[[(R)-cyclohexylmethylene]bis(oxy)]-11-hydroxy-21- (2-methyl-1-oxopropoxy)- pregna-1, 4-diene-3, 20-dione
化学的データ
化学式C32H44O7
分子量540.688 g/mol
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日本では、帝人ファーマから吸入ステロイド喘息治療剤のオルベスコ(オルベスコインヘラー)として販売されている。海外では喘息の治療薬としてブランド名Alvesco、花粉症の治療薬としてブランド名Omnaris、Omniair、Zetonna、Alvesco[1]で、米国およびカナダで販売されている。

オルベスコ(商品)

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帝人ファーマ吸入ステロイド剤で、シクレソニドを主薬とした定量噴霧式エアゾール剤(pMDI[2]である。成人用としては日本で初めての1日1回投与である(ただし、1日800μgを投与する場合は、朝、夜の2回に分けて投与)。2020年現在、処方箋医薬品である。後発品は発売されていない。

シクレソニドの開発・権利

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シクレソニドはドイツアルタナが開発した。 1990年に特許が取得され[要出典]、2004年2月に気管支喘息を適応症としてオーストラリアで承認された。 2006年10月に米国食品医薬品局によって成人と12歳以上の小児に承認された[3]。 2006年にアルタナの製薬部門はスイスナイコメッド社に買収され、2011年にナイコメッドは武田薬品工業に買収された。

日本では帝人(2002年に帝人ファーマに分社)により1999年より臨床試験が行われ、2007年に気管支喘息を適応症とし製造・販売を承認され発売された[4][5]。しかし、海外メーカーからの導入品のため、増産する場合も帝人ファーマの一存ではできないという[6]

日本向けの製剤がどこで製造されているかに関して、帝人ファーマは非開示である。

米国販売権は、上記武田薬品工業から米Sunovion Pharmaceuticals Inc.(英語版)(大日本住友製薬の子会社)に譲渡され、2017年に、大日本住友製薬から上記Covis Pharmaに譲渡された[7]。海外での権利は[8]Sunovion Pharmaceuticals Inc.、2015年に英アストラゼネカに移り[9]、2018年より上記Covis Pharma(本社オランダ、アポロ・グローバル・マネジメント傘下)が保有している[10]

Covis Pharmaは、オランダバールンに本社、スイスツークに支社をもつ。親会社はファンド会社のアポロ・グローバル・マネジメント(本社、ニューヨーク[11]

シクレソニドを承認している国は2010年でも59カ国あった[2]。がん幹細胞の阻害[12]など、本剤の有用性が多数報告されている。

薬剤の特徴

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プロドラッグ(生体で代謝作用を受けて変化後に効果を発揮する薬剤)である。吸入投与後、肺および気道でエステラーゼにより活性化され、活性代謝物である脱イソブチリル体になる。

副作用

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 頭痛、鼻血、鼻と喉の内膜の炎症[13]

禁忌

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  1. 有効な抗菌剤の存在しない感染症、深在性真菌症の患者。症状を増悪するおそれがある。
  2. 成分(シクレソニド、無水エタノール、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFA-134a))に対して過敏症の既往歴のある患者。

原則禁忌

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結核性疾患の患者。症状を増悪するおそれがある。

研究事例

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2020年3月2日、2019新型コロナウイルスによる急性呼吸器疾患(COVID-19)の肺炎に著功を示した3症例が神奈川県立足柄上病院のチームから報告された[14]のを皮切りに、症例が続々と報告された。

脚注

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  1. ^ Covis Pharma – Products”. 2020年3月5日閲覧。
  2. ^ a b 医薬品インタビューフォーム オルベスコ”. 帝人ファーマ. 2020年3月29日閲覧。
  3. ^ FDA News Release. FDA Approves New Treatment for Allergies”. Food and Drug Administration (2006年10月23日). 2009年7月30日閲覧。
  4. ^ 野中崇司, 勝浦 保宏, 杉山 浩通, 宮城文敬「吸入ステロイド喘息治療薬シクレソニド(ciclesonide:オルベスコ®インヘラー)の薬理学的特徴と臨床効果」、日本薬理学雑誌、2008年、2020年4月2日閲覧 
  5. ^ 臨床研究等に向けたシクレソニド吸入用製剤の供給について”. 帝人ファーマ (2020年3月10日). 2020年3月25日閲覧。
  6. ^ 新型コロナ対応で「オルベスコ」2万本分確保へ 政府要請受け帝人ファーマ、臨床研究用に”. 日刊薬業 (2020年3月10日). 2020年3月25日閲覧。
  7. ^ Covis社へのシクレソニド3製品(喘息・アレルギー性鼻炎治療剤)の販売権譲渡に関するお知らせ”. 大日本住友製薬 (2017年7月14日). 2020年3月25日閲覧。
  8. ^ 新型コロナ 既存薬転用 帝人ファーマやアッヴィ、供給を約束”. 化学工業日報 (2020年3月12日). 2020年3月25日閲覧。
  9. ^ アストラゼネカ社への呼吸器系疾患領域ポートフォリオの売却について”. 武田薬品工業 (2015年12月16日). 2020年3月25日閲覧。
  10. ^ Divestment of rights to Alvesco, Omnaris and Zetonna to Covis Pharma(直訳:Alvesco、Omnaris、ZetonnaのCovis Pharmaへの権利譲渡)”. アストラゼネカ (2018年11月6日). 2020年3月25日閲覧。
  11. ^ Funds Managed by Affiliates of Apollo Global Management to Acquire Covis Pharma From Cerberus(直訳:ケルベロスからCovis Pharmaを買収するためにApollo Global Managementの関連会社が管理するファンド)”. APOLLO (2020年2月26日). 2020年3月25日閲覧。
  12. ^ The FDA-Approved Anti-Asthma Medicine Ciclesonide Inhibits Lung Cancer Stem Cells through Hedgehog Signaling-Mediated SOX2 Regulation(直訳:FDA承認の抗喘息薬シクレソニドは、ヘッジホッグシグナリングを介したSOX2調節により肺がん幹細胞を阻害する)”. MDPI (2020年2月4日). 2020年3月25日閲覧。
  13. ^ Mutch, Elaine; Nave, Ruediger; McCracken, Nigel; Zech, Karl; Williams, Faith M. (2007). “The role of esterases in the metabolism of ciclesonide to desisobutyryl-ciclesonide in human tissue”. Biochemical Pharmacology 73 (10): 1657–64. doi:10.1016/j.bcp.2007.01.031. PMID 17331475. 
  14. ^ COVID-19肺炎初期~中期にシクレソニド吸入を使用し改善した3例”. 神奈川県立足柄上病院 (2020年3月2日). 2020年3月6日閲覧。

参考文献

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  • ロッシS(編)(2006)。 オーストラリア医薬品ハンドブック2006。 アデレード:オーストラリア医薬品ハンドブック。 ISBN 0-9757919-2-3

関連項目

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外部リンク

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