オウシュウオオキベリアオゴミムシ
オウシュウオオキベリアオゴミムシ[1] Chlaenius circumscriptus (Duftschmid, 1812) [3]は、コウチュウ目(鞘翅目)オサムシ科・ゴモクムシ亜科[注 1]の Chlaenius 属( Epomis 亜属)に分類される昆虫(ゴミムシ)の一種[1]。
オウシュウオオキベリアオゴミムシ | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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Hyla savignyi (アマガエル属の一種)を捕食するオウシュウオオキベリアオゴミムシの成虫
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分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Chlaenius circumscriptus Duftschmid, 1812 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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和名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
オウシュウオオキベリアオゴミムシ[1] | |||||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Epomis circumscriptus |
ヨーロッパなど旧北区に分布する[1][4]。本種は水辺(池・小川など)周辺に生息し、成虫は両生類(カエル・サンショウウオなど)を、幼虫も生きている両生類のみを捕食する[1]。このように小さな無脊椎動物でありながら、自身より大きい脊椎動物を捕食する本種の生態は珍しいものとされる[注 2][1]。
分類
編集本種は Chlaenius 属 (Bonelli, 1810) の亜属である Epomis 亜属 (Bonelli, 1810) に属する[6]。Epomis を独立した属として分類する考えもあり[1]、その場合は本種の学名は Epomis circumscriptus となる[3]。Epomis 亜属はユーラシア大陸・アフリカに約30種が分布し[1]、成虫・幼虫とも両生類を捕食する[7]。その中には、幼生が外部寄生的な方法で無尾類(カエル)のみを食べている種も含まれる[6]。
分布
編集分布範囲はWizen (2012) では「ヨーロッパのうちポルトガル - ウクライナ・トルコにかけての広範囲(北ヨーロッパ・中央ヨーロッパを除く)、中央アジア西部・北アフリカ」と[4]、丸山宗利 (2016) では「旧北区(ヨーロッパ南部・アフリカ北部・カナリア諸島からイラン)」とされている[1]。
形態・特徴
編集成虫
編集成虫の体長は18 - 24 mm[1]。体色は黒が基調で、緑色ないし青色の金属光沢を帯び、上翅の側方縁は淡黄色を帯びる[1]。触角・脚は淡い赤黄色 - 茶黄色で、やや幅広い前胸背板[注 3]に荒い点刻がある[1]。上翅(鞘翅)の両横はほぼ平行で、上翅には明瞭な溝がある[1]。
地中海沿岸東部に分布する同属の Chlaenius dejeani (Epomis dejeani) は本種よりわずかに小型(体長16 - 19 mm)で、前胸背板の形状がわずかに異なるほか、側方縁の点刻が本種より多い点で区別できる[1]。また日本を含む東アジア・東南アジアにはオオキベリアオゴミムシ[2] Chlaenius nigricans [8] (Epomis nigricans) [9][10][2]が生息するが、同種の幼虫も小さなカエル・オタマジャクシなどを捕食する[11]。
幼虫
編集-
1齢幼虫の体色の変化
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2齢幼虫の体色の変化
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3齢幼虫の体色の変化
本種の幼虫段階は1齢から3齢までの3段階である[12]。孵化直後の1齢幼虫は体長約5 mmで、1齢幼虫(脱皮直前で体長は約8.5 mm)の体色は淡黄色ないし茶色がかった色で、まれに茶色となる[12]。また、触角・脚や尾突起 Urogomphi は淡黄色で、体側が黒っぽい灰色になる場合もある[12]。
2齢幼虫および3齢幼虫の体色は黄褐色または白を基調とし、黒とオレンジの斑点が連続する場合が多いが、個体差(黒っぽかったり、淡黄色が強かったりなど)もある[12]。2齢幼虫・3齢幼虫とも触角は(先端の2節を除き)ほとんど黒くなり、下顎も黒いが、脚や尾突起 Urogomphi は黄色である[12]。脱皮直前の2齢幼虫は体長約13 mm、3齢幼虫(蛹化直前)の体長は約20.2 mmとなる[12]。近縁種である C. dejeani の幼虫は本種と比べると概して黒みが強い[注 4]が、同種幼虫の体色も個体差がある[12]。
生態
編集本種は湿地帯環境に生息し、水辺(淵・池・小川など)の周辺で生活する[1]。
本種の成虫は両生類(カエル・サンショウウオなど)[1]のほか、昆虫や負傷した齧歯類・鳥などを食べる[13]。一方で幼虫は生きている両生類のみを捕食し[1]、 Chlaenius dejeani (Epomis dejeani) も本種と類似した生態を持つ[14]。
Wizen & Gasith (2011) によれば、本種 (C. circumscriptus) や C. dejeani の幼虫は両生類のみを食べる[15]。これら2種の幼虫は触角を上下左右に振ったり、顎を触角とともに左右に振ったりして[注 5]両生類を誘引する[15]。両生類は幼虫を襲い捕食しようと接近するが[15]、幼虫は牙が二股に分かれた特殊な形状の大顎[注 6]で両生類の皮膚に噛みつき[注 7][14]、両生類の肉を溶かす酵素が含まれた唾液により、肉を体外で消化して食べる[13]。初めは宿主(両生類)の体液を吸収するが、やがて体組織を噛み砕き、最終的に両生類を死に至らしめる[注 8][14]。幼虫は3つの発達段階を踏むが、各齢の終わりに両生類の宿主から離れて隠れた場所で脱皮し、脱皮後に再び新しい両生類の宿主を探す[14]。1齢幼虫は体が比較的小さいため両生類(ヒキガエル・カエル・イモリ・サンショウウオ)を1頭しか食べる必要がないが、2齢幼虫は2, 3頭を、3齢幼虫は5頭まで食べることができる[13]。
Wizen & Gasith (2011) は「2種類の Epomis 亜属の幼虫( E. dejeani および E. circumscriptus の幼虫計420匹)を利用してカエル3種類(ミドリヒキガエル Pseudepidalea viridis 、アマガエル属の Hyla savignyi および Pelophylax bedriagae[注 9] )およびイモリ2種類(Ommatotriton vittatus およびムジハラファイアサラマンダー Salamandra infraimmaculata)との遭遇観察(両生類と幼虫が遭遇した場合の幼虫の反応の観察)を実験したが[16]、種間相互作用はすべて Epomis 亜属の幼虫に有利な結果(両生類を捕食した結果)に終わった」[注 10][15]と述べている。また、アマガエル属 Hyla の1種やシュレーゲルアオガエル Rhacophorus schlegelii も Epomis 亜属の幼虫に捕食されている記録がある[17]。
保全状況
編集本種はイタリアでは絶滅危惧種に指定されている[12]。また、 Epomis 亜属はヨーロッパの地中海地域で絶滅の危機に瀕しており[12]、一部の生息地では絶滅した集団もあると報告されている[1]。
ギャラリー
編集-
触角・大顎を動かして獲物(両生類)を誘引するオウシュウオオキベリアオゴミムシの幼虫
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カエルに飲み込まれたが2時間後に生きたまま脱出し、逆にカエルを捕食することに成功したオウシュウオオキベリアオゴミムシの幼虫
脚注
編集注釈
編集- ^ a b 森本桂 (2007) は、日本に生息するオオキベリアオゴミムシ Epomis nigricans をアオゴミムシ亜科 Callistinae に分類している[2]。
- ^ 脊椎動物を常食する昆虫としては、他にタガメ類がいる[5]。
- ^ 同種の前胸背板は中央あるいはやや前方で最大幅になり、後角は丸みを帯びる[1]。
- ^ C. dejeani は1齢幼虫の場合、ほとんどは頭部・胸部・腹部(最後の2 - 3節を除く)が黒褐色である[12]。2齢幼虫および3齢幼虫の場合は淡い茶色(黒い斑点を伴う)の個体から真っ黒な個体までいる[12]。また同種の2齢幼虫および3齢幼虫は本種とは異なり、触角は淡褐色または灰色で、下顎は薄茶色または黒色(基部は薄茶色)である[12]。
- ^ その動きは幼虫との距離が小さくなるほど強くなる[15]。
- ^ 丸山 (2016) は「鉤状の大顎」と述べている[1]。
- ^ 丸山 (2016) は「幼虫は両生類が接近してきても、両生類の餌食になることはほぼない」と述べている[1]。
- ^ 両生類が Epomis 亜属の幼虫に体液を吸収された後も生存している場合もあるが、そのような場合でも幼虫が噛みついた傷跡が明瞭に残る[14]。
- ^ Pelophylax 属はトノサマガエル Pelophylax nigromaculatus およびダルマガエル Pelophylax porosus と同属。
- ^ 同実験によればミドリヒキガエル Pseudepidalea viridis のうち1頭が E. circumscriptus 種の幼虫を飲み込んだが、幼虫は生きたまま2時間にわたり胃内に留まり、その後吐き出されてミドリヒキガエルに対する捕食行動を取った[15]。
出典
編集- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa 丸山 2016, p. 87.
- ^ a b c 森本桂(監修者)『甲虫 篇』 第2巻(新訂版初版発行(旧版初版発行:1963年6月30日))、北隆館〈新訂 原色昆虫大圖鑑〉、2007年5月10日、50-51頁。ISBN 978-4832608269 。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u “Chlaenius circumscriptus (Duftschmid, 1812)”. GBIF. 2020年10月13日閲覧。
- ^ a b Gil Wizen、Claudia Drees、Avital Gasith「Distribution of two Epomis species (Carabidae, Chlaeniini) in Israel, with notes on their habitat」(PDF)『Israel Journal of Entomology』第41巻、The Entomological Society of Israel、 イスラエル、2012年、96頁、 オリジナルの2020年10月12日時点におけるアーカイブ、2020年10月12日閲覧。
- ^ 内山りゅう『今、絶滅の恐れがある水辺の生き物たち タガメ・ゲンゴロウ・マルタニシ・トノサマガエル・ニホンイシガメ・メダカ』(初版第1刷)山と渓谷社〈ヤマケイ情報箱〉、2007年6月5日、22頁。ISBN 978-4635062602。 - 内山は編集・写真を担当、文の執筆は市川憲平。
- ^ a b 笹川 2017, p. 167.
- ^ Wizen & Gasith 2011, Abstract.
- ^ 竹中英雄『昆虫II 甲虫』(改訂新版)世界文化社(発行者:小林公成)〈世界文化生物大図鑑〉、2004年6月15日(初版第1刷発行)、36頁。ISBN 978-4418049080 。
- ^ 上野俊一 著「オサムシ科 Carabidae オオキベリアオゴミムシ Epomis nigricans」、上野, 俊一、黒澤, 良彦、佐藤, 正孝(編著) 編『原色日本甲虫図鑑(II)』(2刷発行)保育社、1989年11月1日(原著1985年1月31日(初版発行))、156頁。ISBN 978-4586300693。
- ^ 本間三郎 編『昆虫 甲虫』 II(第2刷発行(初版発行:1983年3月1日 / 改訂初刷発行:1990年3月15日))、学習研究社〈学研生物図鑑〉、1991年5月27日、198頁。ISBN 978-4051038496。
- ^ 酒井雅博 (2014年10月). “オオキベリアオゴミムシ:愛媛県レッドデータブック”. 香川県 公式ウェブサイト. 愛媛県. 2020年6月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年6月11日閲覧。 - 『愛媛県レッドデータブック』(2014年10月刊行)より
- ^ a b c d e f g h i j k l Gil Wizen; Avital Gasith (2011-07-15). “Color variability and body size of larvae of two Epomis species (Coleoptera, Carabidae) in Israel, with a key to the larval stages” (英語). Zookeys (Pensoft Publishers) (119): 37–52. doi:10.3897/zookeys.119.1451. PMID 21998516. オリジナルの2020-10-13時点におけるアーカイブ。 2020年10月13日閲覧。.
- ^ a b c Simon 2016.
- ^ a b c d e Wizen & Gasith 2011, Introduction.
- ^ a b c d e f Wizen & Gasith 2011, Results.
- ^ Wizen & Gasith 2011, Materials and Methods.
- ^ 笹川 2017, p. 170.
- ^ Eldad Elron, Alex Shlagman, Avital Gasith. “First detailed report of predation on anuran metamorphs by terrestrial beetle larvae” (il). テルアビブ大学. テルアビブ大学. 2020年6月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年6月15日閲覧。
参考文献
編集- Gil Wizen; Avital Gasith (2011年9月21日). “An Unprecedented Role Reversal: Ground Beetle Larvae (Coleoptera: Carabidae) Lure Amphibians and Prey upon Them” (英語). PLoS ONE (Public Library of Science) 6 (9). doi:10.1371/journal.pone.0025161. PMC 3177849. PMID 21957480 .
- Matt Simon (2016年1月29日). “Absurd Creature of the Week: This Toad Isn't Eating a Bug. The Bug Is Eating It” (英語). Wired. オリジナルの2020年6月17日時点におけるアーカイブ。 2020年6月17日閲覧。
- 丸山宗利(日本語版監修) 著、パトリス・ブシャー(総編集) 編『世界甲虫大図鑑』(第1刷発行)東京書籍、2016年5月20日、87頁。ISBN 978-4487809301 。
- Kôji Sasakawa(笹川幸治) (2017年9月20日). “Notes on the preimaginal stages of the ground beetle Chlaenius (Epomis) nigricans Wiedemann, 1821 (Coleoptera: Carabidae)” (英語). Biogeography (日本生物地理学会) 19: 167-170. doi:10.11358/biogeo.19.167. ISSN 1880-8085.
関連項目
編集- 捕食寄生
- オオキベリアオゴミムシ Chlaenius nigricans (Epomis nigricans) - 日本を含む東アジアに生息する近縁種。