オイラーの分割恒等式
数論、組合せ論におけるオイラーの分割恒等式(オイラーのぶんかつこうとうしき)は、自然数(正の整数)を「互いに異なる自然数に分割する方法の個数」(distinct partition; 異分割) と「奇数の自然数に分割する方法の個数」(odd partotion; 奇分割) が等しいことを示す恒等式である。[1]
分割の例
編集例えば、自然数 8 を互いに異なる自然数に分割する方法
- 8 = 1+2+5
- 8 = 1+3+4
- 8 = 1+7
- 8 = 2+6
- 8 = 3+5
- 8 = 8
と奇数の自然数に分割する方法
- 8 = 1+1+1+1+1+1+1+1
- 8 = 1+1+1+1+1+3
- 8 = 1+1+1+5
- 8 = 1+1+3+3
- 8 = 1+7
- 8 = 3+5
の個数は等しく 6 である。
自然数 n をこのように分割する方法の個数を Q(n) で表すと、
- Q(1) = 1, Q(2) = 1, Q(3) = 2, Q(4) = 2, Q(5) = 3, Q(6) = 4, Q(7) = 5, Q(8) = 6, Q(9) = 8, Q(10) = 10, … (オンライン整数列大辞典の数列 A9)
などと続く。
母関数による表現
編集オイラーは2種類の分割の方法の個数が等しいことを、母関数を用いて示した。自然数 n を互いに異なる自然数に分割する方法の数を Pd(n) とすると
である。また、自然数 n を奇数の自然数に分割する方法の数を Po(n) とすると
である。従って、オイラーの分割恒等式は
と書き表される。
証明
編集母関数で書き表したものの左辺を変形すると右辺が得られる。
初等的な説明
編集例として 8 を分割することを考える。ここで P を「異なる数による分割」に現れる一つの偶数をその半分の二つの整数の和にする変換、U を「奇数のみの分割」に現れる同じ二つの整数を一つの偶数にする変換とすると
このように「異なる数による分割」の方法と「奇数のみの分割」の方法との間に1対1対応がつけられる。これはPとUが互いに逆の変換であることから導かれる。したがってそれらの方法の個数は互いに等しい。ただし上記の 1+7 や 3+5 のような「異なる数による分割」と「奇数のみの分割」の両方に属するような方法は自分自身に対応づけることとする。その場合は恒等写像 I で表した。
注
編集参考文献
編集- Andrews, George E.; Eriksson, Kimmo (2004), Integer Partitions (2nd ed.), Cambridge University Press, ISBN 0-521-60090-1
- Hardy, G. H.; Wright, E. M. (2008) [1938], Heath-Brown, D. R.; Silverman, J. H.; Wiles, Andrew, eds., An Introduction to the Theory of Numbers (6th ed.), Oxford: Oxford University Press, ISBN 978-0-19-921985-8
関連項目
編集- 自然数の分割
- 分割数
- ロジャース=ラマヌジャン恒等式: 和因子が±1 (mod 4)であるオイラーの分割恒等式のmod 5版
- シューアの分割定理: 和因子が±1 (mod 4)であるオイラーの分割恒等式のmod 6版
- グレイシャーの定理: オイラーの分割恒等式、およびロジャース=ラマヌジャン分割恒等式を一般化する。グレイシャー対応。
外部リンク
編集- Weisstein, Eric W. "Partition Function Q". mathworld.wolfram.com (英語).
- Alexander D. Healy, Partition Identities
- アンドリュ-ス, エリクソン『整数の分割』書評 (PDF)