エッグポーズ
エッグポーズは、日本の女性が写真を撮られる際にとるポーズの一つ。両手を広げて前へ差し出すポーズである[1][2]。1995年創刊の女性向けファッション雑誌「egg」から派生したものであり、1990年代から2000年代[3]、特に1998年から1999年頃に若い女性の間で流行した流行した[4][5]。「eggポーズ[6][7]」「Eポーズ[1]」とも表記される(読みは同じ[1][8])。
形状
編集egg編集長を務めていた中川滉一は、エッグポーズを大きく3種類に分類している。
- 両手を広げて前へ差し出すポーズ[1][2]。片手のみを差し出す場合もある[1]。
- ガッツポーズのように手を挙げる「エッグ・ガンマ・ポーズ」[1][2]。
- 目のあたりでVサインをする「ヒロム君ポーズ」[2]。名称は、このポーズを作った雑誌「egg」の人気読者モデルの名に由来している[2]。
中川は、この3つをエッグポーズの基本、中でも「両手を広げて前へ差し出すポーズ」と主流しており、これらをもとに多くのバリエーションが登場しているとしている[2]。
発祥
編集先述の中川滉一は、このポーズの流行当時、「1997年秋頃から自然発生のようにこのポーズが増加していたのであり、eggで撮影するときも、投稿で写真が送られるときも、egg側から注文や強制はしていない」としており[1][4]、「元気で明るくて可愛いというテーマが女子高生に受け売れられ、それがこのようなポーズに反映された」と分析していた[1]。またポーズを強制していない理由について、「eggは『作られた流行は非常的に格好悪い』をポリシーとしていたため」とも語っていた[1]。
作家の泉麻人は、「プリクラやレンズ付きフィルムの普及によって、女性が被写体として写真を撮影されることに慣れており、カメラを向けられても身構えることなく自然体でいられるために、派手なポーズをとる際に羞恥心も低下したことによって、化粧やファッションと同様に、自己表現の手段の一つとしてこのようなポーズが誕生した」と分析していた[2]。
一方で、egg創刊当時から東京都渋谷区の女子たちを撮影し続けてきたカメラマンの鈴木竜太(当時の通称は「クンニ鈴木」)は後年、エッグポーズは自身が考案したものと語っている[6]。鈴木によれば、「egg創刊当初は、クラブでのスナップ撮影も多く、皆がフレミングの法則のように手から指3本を伸ばした『チェケラポーズ』をしていたので、カメラマンとしては飽きがきており、別のポーズとして手を広げたポーズを提案したのが始まり」と語った[6][9]。またeggで実際にモデルを務めていた女性の1人も後年、「カメラマンの指示があった」と語っている[5]。
流行
編集1998年頃には、当時の女性の写真の撮られ方の新たな定番とされていた[4]。当時の高校生の女子の1人は「プリクラや集合写真ではお約束」「撮られるときに、自分でアレンジすることも多い」と語った[4]。当時のカメラマンも、渋谷でスナップ写真を撮ることが多く、「ほとんどの女子がエッグポーズを撮る」と語っていた[4]。その流行の勢いは、一時期はピースサインを凌いでおり、プリクラのシールを手帳やアルバムに貼って持ち歩く女子も多かった[10]。
雑誌「女性自身」の1998年の調査によれば、日本国外への旅行時も記念写真でこのポーズを撮る女性が多く、ハワイ、イタリア、ローマのトレヴィの泉などでエッグポーズで記念写真を撮る様子も見られた[1]。旅行会社のツアーコンダクターの1人も1998年当時、「以前は皆がVサインだったが、今年からそのような旅行客が増加した」、卒業アルバムなどの製作を手がける写真会社も「仲間内だけの記念のミニアルバムを製作しており、そこでもこのポーズが主流」と証言していた[1]。実際の観光客からも「ハワイでエッグポーズをすると、日本よりずっと気持ちいい」との声があった[1]。流行の要因については、「両手を前に出して、顔との遠近感を演出することで、小顔に見える効果があるため」との説もある[7][10]。
2002年頃には「懐かしい」「恥ずかしいからもうやらない」との声もあり、流行は一旦は廃れたものの[5]、その後の2022年には、1990年代から2000年代のギャル文化が「Y2K(2000年代)ファッション」としてZ世代(1990年半ばから2010年代前半に生まれた世代)で再流行したことで、再び撮影時の定番となっている[11]。2021年に『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)で、世代間によるポーズの違いが取り上げられた際には、30代がエッグポーズを取ることが多いとされ、高校時代に流行したためと分析されている[12]。
2022年以降には、ピースサインを上下逆にして前へ突き出す「ギャルピース」が韓国や日本で流行しており、1990年代の日本のギャル文化が発祥とされているが、これはエッグポーズの派生、または進化系とする説もある[13][14]。
脚注
編集- ^ a b c d e f g h i j k l 女性自身 1998b, pp. 198–199
- ^ a b c d e f g 女性自身 1998b, p. 200
- ^ 『2009年から14年連続発表! ギャルの流行語ランキング本家! 第14回【2022年 ギャル流行語大賞】を発表! 1位は『ギャルピ』に決定!』(プレスリリース)TWIN PLANET、2022年12月7日 。2023年2月27日閲覧。
- ^ a b c d e 女性自身 1998a, p. 62
- ^ a b c SPA! 2002, p. 107
- ^ a b c 週刊女性 2019, pp. 58–59
- ^ a b “広瀬すず&瑛太、仲良しショット“eggポーズ”が「懐かしい」「年代を越えた小顔術」と話題に”. モデルプレス. ネットネイティブ (2018年3月1日). 2023年2月27日閲覧。
- ^ “二階堂ふみ&コムアイが「少し古め」のポーズ「懐かしい」「最高」”. J-CASTニュース. ジェイ・キャスト (2018年7月17日). 2023年2月27日閲覧。
- ^ 村橋ゴロー (2017年3月30日). “「eggポーズは俺が考えた」元ギャル雑誌カメラマンが振り返る渋谷系カルチャー誕生秘話”. 日刊SPA!. 扶桑社. p. 2. 2023年2月27日閲覧。
- ^ a b 関根 2004, p. 38
- ^ “令和ギャル&ぴえん系女子の外観7つの特徴。「生活のすべてが推し中心」”. 日刊SPA!. p. 1 (2022年9月9日). 2023年2月27日閲覧。
- ^ 北田力也 (2021年5月10日). “羽鳥慎一、写真加工をする若者に疑問「目の大きさとか全然違う…」”. しらべぇ. NEWSY. p. 1. 2023年7月24日閲覧。
- ^ “「ギャルピース」時を経て大復活 アイドル「IVE」レイが再ブームの口火”. ジェイ・キャスト (2022年4月30日). 2023年2月27日閲覧。
- ^ “egg流行語大賞2022発表”. egg. エイチジェイ (2022年11月21日). 2023年2月27日閲覧。
参考文献
編集- 関根康正 編『〈都市的なるもの〉の現在 文化人類学的考察』東京大学出版会、2004年2月20日。ISBN 978-4-13-056302-4。
- 「『egg』エッグポーズを生んだ伝説の雑誌は元・男性誌だった」『週刊女性』第63巻第13号、主婦と生活社、2019年4月9日、大宅壮一文庫所蔵:000042856、2023年2月12日閲覧。
- 「「ハイ・チーズ!」でVサインはもう古い!? 今はエッグポーズだ!」『女性自身』第41巻第22号、光文社、1998年6月9日、大宅壮一文庫所蔵:200020552。
- 「この夏、Vサインに死刑宣告 トレンド大異変! 記念写真の撮り方が変わった! エッグポーズが主流に」『女性自身』第41巻第26号、1998年7月14日、大宅壮一文庫所蔵:200020556。
- 「写真の決めポーズ大研究 コギャル、クラバー、アイドルからOL、サラリーマンまで」『SPA!』第51巻、扶桑社、2002年5月14日、大宅壮一文庫所蔵:100053287。