ミヤマムラサキ
ミヤマムラサキ(深山紫、学名:Eritrichium nipponicum Makino[1])は、ムラサキ科ミヤマムラサキ属に分類される小形[4]の多年草の1種[5][6][7][8][9][10][11]。属名の「Eritrichium」は、ギリシャ語で軟毛と毛を意味し[8]、種小名の「nipponicum」は日本本州を意味する[11]。和名は、深山に生育し、薄青紫色の花を付けることに由来する[8]。
ミヤマムラサキ | ||||||||||||||||||||||||||||||
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分類(APG III) | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Eritrichium nipponicum Makino)[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
ミヤマムラサキ | ||||||||||||||||||||||||||||||
変種 | ||||||||||||||||||||||||||||||
特徴
編集高さ5-12 cm[6]、茎は初め横に這い、中部から斜めに立ち上がる[11]。茎と葉に白い剛毛[6]が密生し[4]、長さはふぞろいですべて上向き[5]。太い地下茎の先に[10]、根生葉は長さ1-6 cm、幅2-6 mmの線状披針形[6]、ロゼット状で質がかたい[4]。茎葉は数個[5]、長さ1-2.5 cm[10]、幅3-5 mm、鈍頭、全縁、基部は鋭形で葉柄は無く、10個ほどが互生する[11]。花は薄青紫色で短く、数本の花茎を出し先端に複総状に次々に付け[4][6]、小花柄は長さ7-12 mm[10][11]。花冠は直径8-10 mm、さら形で、深く5裂して平らに開き、裂片は広い楕円形で円頭、筒部は短く[11]、喉部に黄色の鱗片がある[6]。付属体は先がへこみ、下部で黄色く膨らむ[5]。雄蕊は5個[11]、短く花筒の中にある[5]。雌蕊は1個[11]。萼片は緑色で深く5裂し、裂片は狭い楕円形、鈍頭で細かい毛が付き、苞は広い線形で長さ3-7 mm[11]。花期は7-8月[4][5][6][7][9][10][11]。花序や花柄は花が終わると伸びる[5]。果実は長さ約1.5 mm[10]、4分果で[5]、斜めに果托に付き[11]、縁に1列のカギ状のとげがあり背面に細毛がある[9][10]。
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花冠は深く5裂する
変種のエゾルリムラサキ(蝦夷瑠璃紫、学名:Eritrichium nipponicum Makino var. albiflorum Koidz. f. yesoense H.Hara[3])は、全体に大きく[6]、剛毛がはより太く長く[5]、さらに質がかたい[11]。ミヤマムラサキよりも花の色が濃い[5][7]。白色の花を付ける品種のシロバナエゾルリムラサキ(白花蝦夷瑠璃紫、学名:Eritrichium nipponicum Makino var. albiflorum Koidz. f. albiflorum (Koidz.)[2]がある[5][6]。
分布と生育環境
編集基本変種は日本の本州中部地方[6](谷川連峰、戸隠山、美ヶ原、飛騨山脈北部[11]、両白山地[12]、赤石山脈)に分布する[5]。基準標本は戸隠山のもの[5][6]。ミヤマムラサキ属はユーラシア大陸に約30種が分布しているが、日本には本種のみが分布する[5][10]。
変種のエゾルリムラサキは、ロシアのサハリンと日本の北海道(礼文島、北見山地、夕張山地、日高山脈)、本州(秋田県[13])に分布する[5]。エゾルリムラサキの基準標本はアポイ岳のもの[5]。
亜高山帯から高山帯にかけての日当たりのよい[9]岩場や砂礫地に生育する[5][7]。白馬岳周辺では、主に蛇紋岩地に生育しているとする調査結果がある[14]。チシマギキョウと同じ場所に生育することがある[4]。
種の保全状況評価
編集- 絶滅危惧IA類 - 山梨県では生育域が局在し個体数が少なく極稀れで、自然遷移による絶滅が危惧されている[15]。
- 絶滅危惧I類 - 石川県[12]、福井県では1地区のみで生育が確認されている希少種[16]。
- 絶滅危惧IB類 - 群馬県[17]では5地点で分布が確認されていて分布域は局所的[18]。
- 地域個体群 - 新潟県[19]
変種のエゾルリムラサキが、環境省によるレッドリストで絶滅危惧IA類[20]、北海道では絶滅危惧種[21]、秋田県では絶滅危惧IA類の指定を受けている[13]。
脚注
編集- ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “ミヤマムラサキ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2019年1月14日閲覧。
- ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “シロバナエゾルリムラサキ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2019年1月14日閲覧。
- ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “エゾルリムラサキ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2019年1月14日閲覧。
- ^ a b c d e f 林 (2009)、234頁
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 清水 (2014)、294-295頁
- ^ a b c d e f g h i j k 豊国 (1988)、195頁
- ^ a b c d 久保田 (2007)、81頁
- ^ a b c 牧野 (1982)、456頁
- ^ a b c d 小野 (1987)、177頁
- ^ a b c d e f g h 佐竹 (1981)、66頁
- ^ a b c d e f g h i j k l m 前沢 (1970)、34-35頁
- ^ a b “いしかわレッドデータブック植物編2010” (PDF). 石川県. pp. 129. 2019年1月14日閲覧。
- ^ a b “秋田県版レッドリスト2014(維管束植物)” (PDF). 秋田県. pp. 3. 2019年1月15日閲覧。
- ^ 波多野 (2008)、203頁
- ^ “山梨県 レッドデータブックの2018改訂版” (PDF). 山梨県. pp. 44. 2019年1月14日閲覧。
- ^ “福井県の絶滅のおそれのある野生動植物2016” (PDF). 福井県. pp. 343. 2019年1月14日閲覧。
- ^ “群馬県レッドデータブック(2018年部分改訂全種リスト)” (PDF). 群馬県立自然史博物館. pp. 7. 2019年1月14日閲覧。
- ^ “群馬県の絶滅のおそれがある野生生物・植物片編(2012年改訂版)” (PDF). 群馬県. pp. 167. 2019年1月14日閲覧。
- ^ “新潟県第2次レッドリスト(維管束植物) カテゴリー順・分類群” (PDF). 新潟県. pp. 10. 2019年1月14日閲覧。
- ^ a b “環境省レッドリスト2017からの新旧対照表【⑨維管束植物】” (PDF). 環境省. pp. 6. 2019年1月15日閲覧。
- ^ “北海道の希少野生生物 北海道レッドデータブック・エゾルリムラサキ”. 北海道. 2019年1月15日閲覧。
参考文献
編集- 久保田修『高山の花―イラストでちがいがわかる名前がわかる』学習研究社、2007年6月。ISBN 978-4054029033。
- 小野幹雄、林弥栄(監修) 編『原色高山植物大図鑑』北隆館、1987年3月30日。ISBN 4832600079。
- 清水建美、門田裕一、木原浩『高山に咲く花』(増補改訂新版)山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑8〉、2014年3月22日。ISBN 978-4635070300。
- 豊国秀夫『日本の高山植物』山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、1988年9月。ISBN 4-635-09019-1。
- 佐竹義輔、大井次三郎、北村四郎、亘理俊次、冨成忠夫 編『日本の野生植物 草本Ⅲ合弁花類』平凡社、1981年10月。ISBN 4582535038。
- 波多野肇、増沢武弘「白馬山系蛇紋岩地の土壌特性と高山植物群落 (<特集>中部山岳地域の高山植生と地球温暖化)」『日本生態学会誌』第58巻第3号、日本生態学会、2008年、NAID 110007008592。
- 林弥栄『日本の野草』山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、2009年10月。ISBN 9784635090421。
- 前沢秋彦『高山植物』保育社〈標準原色図鑑全集 11〉、1970年1月。ISBN 4586320117。
- 牧野富太郎、本田正次『原色牧野植物大図鑑』北隆館、1982年7月。ASIN B000J6X3ZE。 NCID BN00811290。全国書誌番号:85032603 。
関連項目
編集外部リンク
編集- エゾルリムラサキの標本(北海道芦別市崕山で1971年6月に採集) 島根大学生物資源学部デジタル標本館
- Eritrichium nipponicum Makino (The Plant List)