エウグノストスEpistle of Eugnostos、エウグノストスの手紙)[1]聖なるエウグノストスの、弟子たちへの手紙[2]、または Eugnostos the Blessed[1][3][4](聖なるエウグノストス)は、ナグ・ハマディ写本の写本 III と V に収められているグノーシス主義の書簡である[3]。岩波文庫の荒井献大貫隆小林稔筒井賢治 編訳『新約聖書外典 ナグ・ハマディ文書抄』(2022年)では、写本 III の方のテキストは「聖なるエウグノストス」、写本 V の方のテキストは「エウグノストス」と呼ばれている[5]。写本 III の「エウグノストス」は哲学者エウグノストスの手紙で、写本 V の「聖なるエウグノストス」は、写本 III の「エウグノスト」を改変してイエスの到来を予告し、同じ材料を使った「イエスの知恵」を続けて書き記している[6]

この2つは、1世紀後半頃にエジプトで書かれたギリシア語の原文のコプト語訳と思われ、写本 III の写本の方が古い翻訳である[4]。学者たちは、このテキストがナグ・ハマディ写本の「イエスの知恵」と相互に関連があると指摘している[1][3]。「イエスの知恵」は、宇宙論に焦点を当てたエウグノストスに、より具体的にキリスト教の要素を加えたものとなっている[7]、この文献は、神と世界の性質に関する哲学的な論説である。著者は、これまでの人間の探求では、言葉で言い表すことのできない人知を超えた神の性質の真理に到達できなかったと主張している。著者は、不滅の人間(an Immortal Man)がおり、その存在が様々な王国や世界を支配し、様々な名前と権威を持つ様々なアイオーンと力を明らかにするという信仰体系について述べている。

出典

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  1. ^ a b c Logan, Alastair H. B. (27 Jul 1981). Gnosis and Gnosticism. Brill. p. 66. ISBN 9789004437203. https://brill.com/display/book/edcoll/9789004437203/BP000006.xml?language=en 9 February 2023閲覧。 
  2. ^ 荒井 1967, p. 168.
  3. ^ a b c Parrott, Douglas M. (1991). The Coptic Encyclopedia, volume 3. Claremont Graduate University. School of Religion. pp. 1068a–1069a. https://ccdl.claremont.edu/digital/collection/cce/id/816 9 February 2023閲覧。 
  4. ^ a b Eugnostos the Blessed”. Early Christian Writings. 9 February 2023閲覧。
  5. ^ 大貫隆『新約聖書外典 ナグ・ハマディ文書抄』 岩波書店
  6. ^ 小林稔「『歴史神学 大貫隆訳・著『グノーシスの神話』岩波書店 書評
  7. ^ Parrott, Douglas, translation and introduction of "Eugnostos the Blessed" and "The Sophia of Jesus Christ" in The Nag Hammadi Library, James Robinson, editor. 1990:220-243

参考文献

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  • 荒井献「ナグ・ハマディ文書の発見とグノーシス主義研究史上におけるその意義」『オリエント』第252巻、一般社団法人 日本オリエント学会、1967年、167-182頁、CRID 1390001205341901824