ウァリドナウィリア
ウァリドナウィリア(Varidnaviria)またはバリドナウイルス域[1]は、2019年に国際ウイルス分類委員会(ICTV)によって提案されたウイルスの分類群(域、Realm)。垂直のゼリーロール構造を持ち、疑似六量体カプソマーを形成する主要カプシドタンパク質(MCP)を持つ二本鎖のDNAウイルスを含む[2][3]。また、これらの構造を持たない場合であっても、進化的に強く関連付けられるウイルスがここに含まれる[2]。多くの場合、パッケージタンパク質やDNAポリメラーゼも進化的に共通している。
ウァリドナウィリア | |||
---|---|---|---|
分類(ICTV) | |||
| |||
下位分類(界) | |||
|
垂直のゼリーロール構造とは、対向する4対の逆平行βシート(ゼリーロール)が、カプシド殻面に対して垂直に配置していることを意味する。リボウィリア(リボウイルス域)の一部ウイルスも主要カプシドタンパク質にゼリーロール構造を持つが、これらは大半がRNAウイルスであり[4]、またゼリーロールがカプシド殻面に対して平行に配置している。
ボルティモア分類でいう第1群(2本鎖DNAウイルス)の一部がウァリドナウィリアに対応している。残りの2本鎖DNAウイルスの大半は、ドゥプロドナウィリア(デュプロドナウイルス域)に属している。ドゥプロドナウィリアは尾部を持つ物が多いことから、ウァリドナウィリアは無尾の二本鎖DNAウイルスと呼ばれることがある。
進化
編集ウァレドナウィリアの起源は非常に古いと推定されているが、出現時期は不明である。細菌や古細菌に感染するスファエロリポウイルス科の垂直なシングルゼリロール構造を持つ主要カプシドタンパク質(MCP)は、コアヒストンに結合する分子シャペロン、ヌクレオプラスミンや、クピンと呼ばれるタンパク質スーパーファミリーと類似しているように見える[5]。これは、平行ゼリーロール構造のMCPを持つ他のレルムのウイルスとは異なる起源をもつことを示唆する[5]。バンフォルドウイルス界に見えるダブルゼリーロールMCPは、スファエロリポウイルス科のMCPと基本的なモチーフを共有しており、遺伝子重複などのイベントを通じて進化してきたと推定されている[5]。
巨大核質DNAウイルスやアデノウイルス科を含む、真核生物に感染する一群のウイルスは、ポリントンと呼ばれる大型のトランスポゾンと関係がある[6][7]。ミトコンドリア獲得イベントを通じて、原核生物から持ち込まれたテクチウイルスに近縁なウイルスがポリントンとして真核生物に定着し、そこから巨大核質DNAウイルスやアデノウイルス科、ヴィロファージなどの、真核生物に感染する二本鎖DNAウイルスの大半が進化出現したシナリオが提唱されている[8]。ポリントンと巨大核質DNAウイルスは、ダブルゼリーロール構造を持つ主要カプシドタンパク質のほか、システインプロテアーゼ、ペントン、A32様ATPアーゼ、一部のヘリカーゼやインテグラーゼなどの構成要素を共有する[7]。
分類
編集2019年に国際ウイルス分類委員会(ICTV)によって提案された分類は以下のとおりである[2][9]。
- バンフォルドウイルス界 Bamfordvirae(垂直のダブルゼリーロール主要カプシドタンパク質)
- ヘルウェティアウイルス界 Helvetiavirae(垂直のシングルゼリーロール主要カプシドタンパク質)
- ディウィドウイルス門 Dividoviricota
- ラセルウイルス綱 Laserviricetes(好塩古細菌や好熱細菌に感染するスファエロリポウイルス科のみを含む)
- ディウィドウイルス門 Dividoviricota
脚注
編集- ^ 「国際ウイルス分類委員会の新しい分類体系(「ICTV New Taxonomy Release(2019)」)で提唱された目より上位の分類(2020年3月承認)」神谷茂 監修、錫谷達夫・松本哲哉 編『標準微生物学 第14版』付録、医学書院、2021年、表27-4、2022年6月12日閲覧。
- ^ a b c Koonin EV "et al." (2019). “Create a megataxonomic framework, filling all principal taxonomic ranks, for DNA viruses encoding vertical jelly roll-type major capsid proteins”. ICTV. doi:10.13140/RG.2.2.14886.47684.
- ^ 例外的に一本鎖DNAのFinnlakevirusを除く
- ^ RNAウイルス以外では、(モノドナウィリア(モノドナウイルス域)の二本鎖DNAウイルスである)パピローマウイルス科及びポリオーマウイルス科が水平のゼリーロール構造を主要カプシドタンパク質(MCP)を持つが、これらはRNAウイルスからMCP遺伝子を取得したと考えられている
- ^ a b c “Multiple origins of viral capsid proteins from cellular ancestors”. Proc Natl Acad Sci U S A 114 (12): E2401-E2410. (21 March 2017). doi:10.1073/pnas.1621061114. PMC 5373398. PMID 28265094 10 June 2020閲覧。.
- ^ “Conservation of major and minor jelly-roll capsid proteins in Polinton (Maverick) transposons suggests that they are bona fide viruses”. Biol Direct 9: 6. (29 April 2014). doi:10.1186/1745-6150-9-6. PMC 4028283. PMID 24773695 10 June 2020閲覧。.
- ^ a b “Polintons: a hotbed of eukaryotic virus, transposon and plasmid evolution”. Nat Rev Microbiol 13 (2): 105-115. (February 2015). doi:10.1038/nrmicro3389. PMC 5898198. PMID 25534808 10 June 2020閲覧。.
- ^ “The So Far Farthest Reaches of the Double Jelly Roll Capsid Protein Fold”. Virol J 15 (1): 181. (23 November 2018). doi:10.1186/s12985-018-1097-1. PMC 6260650. PMID 30470230 10 June 2020閲覧。.
- ^ “Virus Taxonomy: 2019 Release”. talk.ictvonline.org. International Committee on Taxonomy of Viruses. 28 April 2020閲覧。