インガー・アンダーセン
インガー・アンダーセン(丁: Inger la Cour Andersen, 1958年5月23日 - )は、デンマークの経済学者で環境保護活動家、政治家。2019年2月国連環境計画(UNEP)事務局長に就任[3][4]。
インガー・アンダーセン | |
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Inger Andersen | |
Andersen (2022) | |
国連環境計画 (UNEP) 事務局長 | |
就任 2019年7月19日 | |
前任者 | Joyce Msuya |
国際自然保護連合 (IUCN) 事務局長 | |
任期 2015年1月 – 2019年 | |
前任者 | Julia Marton-Lefèvre |
世界銀行副総裁 | |
任期 2011年10月 – 2014年12月[1] | |
CGIAR基金評議会議長 | |
任期 2010年 – 2011年 | |
〈Sudan Aid〉(1982年-1985年) | |
個人情報 | |
生誕 | Inger la Cour Andersen 1958年5月23日(66歳) デンマーク、北ユラン地域 |
国籍 | デンマーク |
配偶者 | Tagelsir AlSchoosh (1986年1月14日–)[2] |
出身校 | ロンドン・メトロポリタン大学、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院 |
公式サイト | https://www.iucn.org/about/senior-management/director-general 公認の履歴 |
概要
編集アンダーセンはUNEPの事務局長の任命に先立ち、国際自然保護連合(IUCN)の事務局長(2015年-2019年)[5]、CGIAR基金評議会議長の任期を挟み1999年に入行した世界銀行では副総裁として持続可能な開発について中東および北アフリカ担当(2011年10月-2014年12月)[6]を務めた。
家族と幼少期と教育
編集インガー・アンダーセンは母アーゴット・ラクール・アンダーセン[2]と父エリック・アンダーセンの娘に生まれ、母方の祖父はデンマークの歴史家で考古学者のヴィルヘルム・ラ・クールである。兄はアメリカズカップなどヨットレースと環境ドキュメンタリーの著名な映像製作者で作家の故ハンス・ラクール・アンダーセンである[7][8]。
デンマークの北ユラン地域ジェラップ村で生まれ高等学校を1977年に卒業、ロンドン北部工科学校(現ロンドン・メトロポリタン大学)を1981年に卒業し学士号を取得。1982年にはロンドン大学東洋アフリカ研究学院で北東アフリカの地域経済と開発を主題に研究し修士号を受ける[9][10]。
主な職歴
編集アンダーセンのキャリアは当初、1982年に英国の助成を受けたプログラムの下、スーダンにわたって英語を教えることから始まり、やがて開発関係の仕事に就き1982年から1985年までスーダン・カトリック司教会議 の開発および救援部門〈Sudan Aid〉に加わると飢餓と干ばつ緩和および復旧に焦点を当てた[2][11][12]。
国連
編集ニューヨークの国連本部に入ると、1987年から1992年の12年にわたり[6]、国連スダノ・サヘル事務所(UNSO)[13]で働いており、干ばつと砂漠化の問題に取り組んだ経歴がある。1992年、国連開発計画(UNDP)で中東と北アフリカ地域 (Middle East and North Africa:MENA) の地球環境ファシリティ調整役に任命され、1999年までアラブ22ヵ国の地球環境ポートフォリオを監修した[10]。
世界銀行
編集アンダーセンは1999年から2001年にかけて国連開発計画(UNDP)と世界銀行の国際水資源協定の調整役として世界銀行に出向して[10]、特にアフリカと中東の水資源、環境の持続可能な開発の領域に重点を置く[3]。水資源管理と交渉の分野では西・中央アフリカ担当(2001年-2002年)、2002年-2004年に水資源供給と浄水ならびに水資源と都市開発を担当する[10]。
2010年から2011年まで、アンダーセンは世界銀行の持続可能な開発担当副総裁および国際農業研究協議グループ (CGIAR) 基金評議会議長を務めた[3]。在任中、同評議会とCGコンソーシアム[疑問点 ]の設立を監督した。持続可能な開発担当副総裁として、アンダーセンが提起した世界銀行の優先課題は多く、その一部として農業生産性と食料安全保障の強化、インフラ投資、気候変動の回復力および緑の成長、社会的説明責任、災害リスク管理および文化と開発をあげることができる[14][15][16]。国連の持続可能な開発目標の17の目標[17][18][19][20]に広く関わる。
持続可能な開発部門をおさめる任期中に、アンダーソンは世界銀行の分析および投資支援の規模拡大を監督し、エネルギー、水資源、輸送の確保と農業および環境セクターに向けた投資に備える回復力のあるインフラ開発を支えた[21]。地域の気候と水資源をめぐるあつれきを緩和する必要性に特に注力しており、どちらも平和と安定に対して重要な脅威になりかねないと主張した[22][23]。
2012年にリヤドで開かれたイエメン国際ドナー会議では、当時のサウジアラビア財務大臣イブラヒム・アブドゥルアズィーズ・アル=アッサーフとともに共同議長を務めた[24]。アンダーセンはMENAの副総裁として、2014年のガザでの戦争の人道的影響についても率直に述べ、ガザとヨルダン川西岸での輸入と移動の自由の確保、パレスチナ自治区とイスラエルの両方の治安を求めた[25]。2011年、アンダーセンはG8 / G7財務大臣のドーヴィル会議で世界銀行を代表し、アラブ地域への追加支援を求めた[26]。
国際自然保護連合 (IUCN)
編集2015年1月に国際自然保護連合 (IUCN) の事務局長に任命されると[27][28]、アンダーセンは職責において世界中の50以上の事務所でIUCNの業務を担当した[29]。
IUCNはアンダーセンのリーダーシップの下、米国ハワイ州で2016年世界自然保護会議を開催し、会議の正式な開会の前夜にハワイ入りしたバラク・オバマ大統領が出席者を歓迎する挨拶を行った。同国が初めて主催国として開催するIUCNの会議であり、アンダーセンは「自然保護のオリンピック」とも呼ばれる世界最大の国際環境保護会議を成功に導いた[30][31]。
IUCN在任中、アンダーセンは持続可能な開発を達成する取り組みにおける自然保護の重要性を次のように強調した。
「自然は人間の願望の障害ではなく、不可欠なパートナーであり、すべての取り組みに貴重な貢献を提供します。」[32][33]
国連環境計画 (UNEP)
編集受賞
編集その他の経歴
編集国際組織
編集- 国連グローバルコンパクト理事
- 国連環境計画(UNEP)金融調査諮問委員
企業取締役
編集- ネスプレッソ、持続可能性諮問理事会(NSAB)理事
非政府組織
編集- 持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)、ハイレベルリーダーシップ評議会評議員
- 持続可能なエネルギー(SE4All)諮問委員
- 生態系と生物多様性の経済学(TEEB)諮問委員
- 世界経済フォーラム(WEF)、環境と天然資源の安全保障に関するグローバルアジェンダ評議員
- 2030水資源グループ、運営委員会および運営委員
- エコフォーラムグローバル国際諮問委員(EFG-IAC)
- 国際オリンピック委員会(IOC)持続可能性およびレガシー委員
SDGs への貢献
編集国連の定めた持続可能な17の開発目標すなわち SDGs〈エスディージーズ〉[17][18][20]について、アンダーセンの施策は以下の項目に貢献している。
- 第2項:飢餓をゼロに…「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」[36]
- 第6項:安全な水とトイレを世界中に…「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」[10]
- 第7項:エネルギーをみんなに、そしてクリーンに…「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」[37]
- 第13項:気候変動に具体的な対策を…「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」[36]
- 第14項:海の豊かさを守ろう…「持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」[38]
- 第15項:陸の豊かさも守ろう…「陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する」[10]
- 第16項:平和と公正をすべての人に…「持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する」[39]
- 第17項:パートナーシップで目標を達成しよう…「持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する」[36]
著作物
編集- Andersen, I., and George Golitzen. K., eds. The Niger river basin: A vision for sustainable management. World Bank Publications, 2005.
- Salman, M. A (2010-06-06). “The international core water team”. In Wolf, Aaron T. (英語). Sharing Water, Sharing Benefits: Working towards effective transboundary water resources management (graduate/professional skills-building workbook). UNESCO. v, x, xi xiii ISBN 978-9-2310-4167-9(仮題「国際コア水資源チーム」『水資源の共有は利益の共有:効果的な越境水資源管理に向けて取り組む』〈大学院生/専門的スキル構築ワークブック〉)
- Gladstone, W.; N. Tawfiqa; D. Nasra; I. Andersen; C. Cheung; H. Drammeh; F. Krupp; S. Lintnere (1999). Sustainable Use of Renewable Resources and Conservation in the Red Sea and Gulf of Aden. 42. Elsevier(紅海とアデン湾における再生可能資源の持続可能な利用と保全)
- Andersen, I, Director General of the International Union for the Conservation of Nature (IUCN) (2017年6月16日). “Healthy Oceans: The Cornerstone for A Sustainable Future” (英語). Impakter.com. 2019年4月9日閲覧。
出典
編集- ^ 世界銀行副総裁の職掌は、持続可能な開発担当(2010-2011)、中東および北アフリカ担当を歴任。
- ^ a b c “69: Lyngby-Linien : 69-613 Inger la Cour Andersen” (デンマーク語). The Association of Pierre la Cour´s Family. 2005年5月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。13 July 2017閲覧。 “Født 23.05.1958 i Jerup. Datter af Erik Andersen og Aagot Dornonville de la Cour. Student fra Midtfyns Gymnasium i 1977. Bachelor of Arts 1978-81 fra North London Polytechnic. Master of Arts African History fra University of London 1981-82.1 982-83 lærer på Buluq Higher Secondary School for Giris i Sudan. 1983-85 lærer på Khartoum International High School i historie og engelsk. 1985 Deputy Relief Coordinator, Sudanaid Relief & Rehabilitation Department i Sudan. Siden 1986 rådgiver hos Sudanaid Relief & Rehabilitation Department i Sudan. Gift 14.01.1986 med Tagelsir AlSchoosh. Født 17.12.1956 i Sudan. Søn afMagzoub AlShoosh og Rouda Abdel Rahim. 1978-81 uddannet elektroingeniør fra Polytechnic of North London. 1981-84 agent for Agip Gas i Khartoum. 1984-86 ansat hos African Centre, Relief & Development Group.”(ラクール家親族協会)
- ^ a b c d U. N. Environment (2019年6月14日). “Inger Andersen” (英語). UNEP - UN Environment Programme. 2019年12月18日閲覧。
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- ^ “Eight Bells ... Hans La Cour Andersen” (英語). Sail-World (31 Oct 2009). 2019年2月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。13 July 2017閲覧。 八点鍾……ハンス・ラクール・アンダーセン
- ^ “Hans la Cour”. IMDb. 13 July 2017閲覧。 ハンス・ラクール
- ^ “World Bank Live > World Bank experts: Inger Andersen > Vice President of Middle East and North Africa region” (英語). World Bank (December 21, 2011). 2012年1月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。3 December 2014閲覧。
- ^ a b c d e f Wolf 2010.
- ^ “Inger Andersen - "We must continue work towards fairer and more sustainable world"” (英語). Thomson Reuters (2017年6月14日). 14 July 2017閲覧。(23.05.1958ジェラップ生まれ。 エリック・アンダーセンとアーゴット・ドーノンヴィル・デ・ラ・クールの娘。1986年1月14日、タゲルシルアルスクーシュと結婚。(1956年12月17日スーダン生まれ、Magzoub AlShooshとRouda Abdel Rahimの息子で1978~81年、ノースロンドンのポリテクニックで訓練を受けた電気技師。アギップガスの営業職(ハルツーム、1981-84)。アフリカセンター救援開発グループに勤務(1984-86年)。)
- ^ “World Bank names three new vice presidents at the End of its Biggest Lending Year Ever” (英語). World Bank. 13 July 2017閲覧。
- ^ 現本拠地ナイロビ、生態系の回復力と砂漠化に関するグローバル方針センター。“Global Policy Centre on Resilient Ecosystems and Desertification” (英語). 13 July 2017閲覧。
- ^ “Inger Andersen, World Bank VP for Sustainable Development at UN Climate Change Conference in Cancun” (英語). Youtube. 13 July 2017閲覧。(世界銀行の持続可能な開発担当副総裁インガー・アンダーセンと国連気候変動会議、開催地カンクン)
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- ^ “World Bank and UNESCO: Expanding Opportunities for Collaboration on Culture and Sustainable Development” (英語). UNESCO. 13 July 2017閲覧。(世界銀行とユネスコ:文化と持続可能な開発に関する協力機会の拡大)
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- ^ a b 外務省. “我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(仮訳)”. 2019年10月17日閲覧。
- ^ Inger Andersen, Sector Director for Sustainable Development. Africa's Energy Needs - Climate Change. Youtube (英語). World Bank. 2017年7月13日閲覧。(アフリカのエネルギー需要-気候変動)
- ^ Andersen, Inger (March 21, 2014). “Published on Arab Voices > More crop per drop in the Middle East and North Africa” (en, fr, ar). World Bank. 13 July 2017閲覧。(Arab Voicesで公開 > 中東および北アフリカで水1滴当たりの収穫量の増加)
- ^ “World Bank: Arab World hit hard by climate change”. US News. 13 July 2017閲覧。(世界銀行:アラブ世界、気候変動により大打撃)
- ^ AFP. “Saudi Arabia's Finance Minister Ibrahim al-Assaf and President of the World Bank, Inger Andersen chair the international donor meeting for Yemen, in Riyadh on September 4, 2012”. gettyimages. 13 July 2017閲覧。(サウジアラビアのイブラヒム・アル=アッサーフ財務相と世界銀行総裁インガー・アンダーセンは、2012年9月4日にリヤドで開催されたイエメンの国際ドナー会議の共同議長を務める)
- ^ Andersen, Inger (6 Nov 2014). “What I saw in Gaza” (英語). Al Jazeera. 13 July 2017閲覧。 “An economy cannot live under siege, nor can the tragic cycle of destruction -reconstruction be sustained. It is not too early to strengthen the institutions that will eventually contribute to greater peace and security.”(ガザで目撃したもの)
- ^ “Panel Discussion on Arab Countries in Transition”. Vimeo. 2017年7月13日閲覧。[リンク切れ](移行期にあるアラブ諸国に関するパネル討議)
- ^ “Inger Andersen named IUCN Director General”. IUCN (2014年10月14日). 3 December 2014閲覧。(インガー・アンダーセンをIUCN事務局長に任命)
- ^ “World Bank loses top management for South Asia, MENA”. Devex (2014年10月17日). 13 July 2017閲覧。(世界銀行、南アジアの上級管理職が流出)
- ^ “IUCN公式サイト掲載記事をInger Andersenで検索した結果” (英語). IUCN. 28 March 2020閲覧。
- ^ D’Angelo, Chris (September 2016). “Obama: No Nation, Not Even One As Powerful As The U.S., Is Immune From Climate Change: The president traveled to Hawaii to address global leaders in advance of the world’s largest conservation event.”. Huffington Post. 13 July 2017閲覧。(オバマ大統領:米国ほど強力でも気候変動の影響を受けない国はない:大統領はハワイに飛び、世界最大の環境保全イベントに先立ち、世界の指導者に向けてスピーチ。)
- ^ “President Obama speaking at East-West Center” (英語). Youtube. 13 July 2017閲覧。 歓迎式典でオバマ元大統領が行ったスピーチの動画を掲載。
- ^ Andersen, Inger (2015年1月28日). “Guardian sustainable business > Failing to protect nature's capital could cost businesses trillions” (英語). The Guardian 13 July 2017閲覧。(ガーディアン紙の持続可能なビジネス > 自然の資本を保護できなければ、ビジネスに数兆のコストがかかる可能性)
- ^ Andersen, Inger. “The natural way forward” (英語). The Guardian. オリジナルの2016年8月22日時点におけるアーカイブ。 13 July 2017閲覧。
- ^ “IRF Annual Report. p.9” (英語). 2019年12月18日閲覧。 2013 IRF Annual Report(年次報告書)、2017年3月24日。
- ^ “Mayer Award Recipients” (英語). 2019年12月18日閲覧。
- ^ a b c Vimeo 2017.
- ^ Gladstone, et.al 1999.
- ^ Andersen 2017.
- ^ Andersen 2014.
関連項目
編集- エコロジカル・フットプリント
- 水資源保全条例
- 気候変動枠組条約 (UNFCCC)
外部リンク
編集- Inger Andersen (@andersen_inger) - X(旧Twitter)
- UNEP公式サイト 2020年3月28日閲覧。
- アンダーセン在籍中の実績 2020年3月28日閲覧。