アローアダイ
アローアダイ(古希: Ἀλωάδαι, Alōadai)、あるいはアローエイダイ(古希: Ἀλωεῖδαι, Alōeidai)は、ギリシア神話の双子の人物、あるいは巨人である。長母音を省略してアロアダイ、アロエイダイとも表記される。
アローエイダイはアローエウスの妻イーピメデイアとポセイドーンとの間に生まれた双子オートス(古希: Ὦτος, Ōtos)とエピアルテース(古希: Ἐφιάλτης, Ephialtēs)のことで[1][2][3]、アローエウスとイーピメデイアの子とも言われ[4][5]、アローエウスにちなんでアローアダイと呼ばれる。アローアダイは恐るべき怪力の持主だったが、幼くしてオリュンポスの神々に戦いを挑み、滅ぼされた。
神話
編集誕生と成長
編集トリオプスの娘イーピメデイアはポセイドーンに恋をして、毎日のように海に通い海水をすくって身に注いだ。そこでポセイドーンはイーピメディアと交わり、オートス、エピアルテースが生まれた[3]。生まれた双子達は驚くべき速さで成長し、9歳の頃には肩幅4.2メートル、身の丈16メートルにまで成長し、その姿はオーリーオーン以外では人間のうちで最も巨大かつ美しかったという[1][3][6]。
神々に戦いを挑む
編集9歳になった彼らは傲慢にも神々に戦いを挑み、天に通じる道を作ろうとしてオリュンポス山の上にオッサ山を、さらにその上にペーリオン山を乗せたが、アローアダイは彼らが成人する前にアポローンによって討ち取られた。しかし彼らがもし成人になっていたら神々にさえ勝利しただろうといわれる[1]。また彼らはアレースを捕らえて13ヶ月ものあいだ青銅の甕の中に閉じ込めたとされる。アレースは甕の中で息絶える寸前に、アローアダイの継母であるエーエリボイアがヘルメースに知らせたので助け出された[4]。
アポロドーロスによると、アローアダイは他にも海を陸地に変え、陸地を海に変えようとし、さらにエピアルテースはヘーラーを、オートスはアルテミスを力ずくで奪おうとした。そこでアルテミスはナクソス島でシカに変じ、エピアルテースとオートスの間を飛び跳ねた。すると彼らは狩りに熱狂し、シカを捕らえようとして槍を投げ合い、互いを刺し殺してしまった[3]。
ヒュギーヌスによれば、アローアダイはオッサ山をペリオーン山に乗せ、また山々を作った。さらにアルテミスを捕らえ、アルテミスは2人の怪力から逃げられなかったため、アポローンは2人の間にシカを放った。するとアローアダイはシカを殺そうとして槍を投げ合い、互いを殺してしまった。2人は冥府で罰を受け、ヘビで1本の柱に背中合わせで縛られており、柱には1羽のフクロウが止まっているという[6][注釈 1][注釈 2]。
ウェルギリウスもアローアダイが冥府で罰を受けていると述べている。ただし具体的にどんな罰を受けているかは語っていない[10]。
ナクソス島の伝承
編集ナクソス島がストロンギュレーと呼ばれていたころ、最初の住人であるトラーキア人は、アローアダイの母イーピメデイアと妹パンクラティスを攫って島に連れ去った[11]。アローアダイは父に命じられて、母と妹を捜索し、ナクソス島で母と妹を発見した。2人はトラーキア人を戦争で破って降伏させると[12]、島の名前をディアと改め、王として君臨した。しかしやがて2人は対立し、戦争に発展したあげく戦場で相討ちとなった。その後、ナクソス島民は2人を英雄として祀った[13]。
その他の伝承
編集ピンダロスもアローアダイはナクソス島で死んだと詠っている[14]。ボイオーティア地方の伝承によると、アローアダイはヘリコーン山でムーサイの祭祀を創始し[15]、ムーサイをメレテー(学習)、ムネーメー(習得)、アオイデー(歌唱)の3女神と定めた[16][注釈 3]。また彼らはポセイドーンとアスクレーの子オイオクロスとともにヘリコーン山麓にアスクレーを創建した[18]。
同地方のアンテドーンにはアローアダイの墓があったと伝えられている[5][注釈 4]。これに対してピロストラトスはテッサリアー地方からアローアダイのものとされる巨大な人骨が発見されたと述べている[19]。
なお、プラトーンは『饗宴』において神々に反抗した両性具有の人種について述べているが、その中でアローアダイの神話は彼らのことを物語ったものであると述べている[20]。
系図
編集アイオロス | エナレテー | ゼウス | エウリュメドゥーサ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ポセイドーン | カナケー | ペイシディケー | ミュルミドーン | ニュクテウス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ホプレウス | ニーレウス | トリオプス | ヒスキュラ | エポーペウス | アンティオペー | ゼウス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アローエウス | イーピメデイア | ポセイドーン | ポルバース | エリュシクトーン | ゼートス | アムピーオーン | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
パンクラティス | アローアダイ | メーストラー | ポセイドーン | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
エウリュピュロス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
カルコーン | アンタゴラース | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
脚注
編集注釈
編集脚注
編集- ^ a b c 『オデュッセイアー』11巻。
- ^ ヘーシオドス断片16(ロドスのアポローニオス、1巻482行への古註)。
- ^ a b c d アポロドーロス、1巻7・4。
- ^ a b 『イーリアス』5巻。
- ^ a b パウサニアース、9巻22・6。
- ^ a b ヒュギーヌス、28話。
- ^ 松田・青山訳注、p.71。
- ^ ケレーニイ邦訳、p.189。
- ^ グレーヴス邦訳、37話d。
- ^ ウェルギリウス『アエネーイス』6巻582行-584行。
- ^ シケリアのディオドーロス、5巻50・6。
- ^ シケリアのディオドーロス、5巻51・1。
- ^ シケリアのディオドーロス、5巻51・2。
- ^ ピンダロス『ピュティア祝勝歌』第4歌88行-89行。
- ^ パウサニアース、9巻29・1。
- ^ パウサニアース、9巻29・2。
- ^ パウサニアス、9巻29・4。
- ^ パウサニアース、9巻29・1-2。
- ^ ピロストラトス『ヘーローイコス』8。
- ^ プラトーン『饗宴』14。
参考文献
編集- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- ウェルギリウス『アエネーイス』岡道男・高橋宏幸訳、京都大学学術出版会(2001年)
- ディオドロス『神代地誌』飯尾都人訳、龍溪書舎(1999年)
- パウサニアス『ギリシア記』飯尾都人訳、龍渓書舎(1991年)
- ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫(2005年)
- ピロストラトス『英雄が語るトロイア戦争』内田次信訳、平凡社ライブラリー(2008年)
- プラトン『饗宴』久保勉訳、岩波文庫(1952年)
- 『ヘシオドス 全作品』中務哲郎訳、京都大学学術出版会(2013年)
- ホメロス『イリアス(上)』松平千秋訳、岩波文庫(1992年)
- ホメロス『オデュッセイア(上)』松平千秋訳、岩波文庫(1994年)
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)
- カール・ケレーニイ『ギリシアの神話 神々の時代』植田兼義訳、中公文庫(1985年)
- ロバート・グレーヴス『ギリシア神話(上)』高杉一郎訳、紀伊国屋書店(1962年)