アリソン・ムオトリ

ブラジルの生物学者

アリソン・レナト・ムオトリポルトガル語: Alysson Renato Muotri)は、アメリカのカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の教授で研究者(2008年–)、同学ヒトゲノム研究所の責任者でもある[1]。ブラジル人研究者として胚性幹細胞を培養した最初の1人[要出典]

アリソン・ムオトリ
Alysson Muotri
生誕 サンパウロ
居住 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
国籍 ブラジルの旗 ブラジル
研究分野 遺伝学神経科学
研究機関 カリフォルニア大学サンディエゴ校
出身校 カンピーナス州立大学BSc
サンパウロ大学 (PhD)
博士課程
指導教員
Carlos Frederico Martins Menck
他の指導教員 フレッド・ゲージ医博
影響を
受けた人物
Carlos Frederico Martins Menck
プロジェクト:人物伝
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遺伝学神経科学に提示された最前線の問題に取り組み、たとえば脳オルガノイドを使ってネアンデルタール人神経系幹細胞の再現に成功した[2][3]。「G1」(ウェブサイト)のコラムニストを10年務める[4][5][6]ブラジル出身生物学者として、影響力の大きい科学出版の実績数が最も多い[7]

経歴

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カンピーナス州立大学(Unicamp)を卒業し生物科学学位を取得。サンパウロ大学(USP)で遺伝生物学博士号を授与されると、遺伝学の視点から人間遺伝医学に重点を置いて取り組む。研究課題[1]DNA修復、ウイルスベクター、がん自閉症[8][9]遺伝子治療、遺伝子調節[1][10]である。

大学に入学した頃から神経科学研究に興味をひかれて論文を読むうちに、ソーク研究所のフレッド・ゲージ博士が発表した幹細胞と新しい神経細胞ネットワークの開発を結びつける研究を知る[要出典]

カリフォルニア州サンディエゴ所在の同研究所で博士課程後期の研究に取り組み、2005年、胚性幹細胞に由来するヒトニューロンが分化し、動物の脳に機能的に統合できることを示した(※=キメラ[注釈 1])。同年はさらに神経遺伝学に関する研究から神経ゲノムにおける「ジャンプ遺伝子」(レトロトランスポゾンL1)の働きを明らかにし、脳の構造は神経ゲノムのモザイクであると示した[13][14]。体内のすべての細胞が同じゲノムを共有するという当時の生物学の教義は、この研究によりくつがえされた[15][16]

山中伸弥ノーベル賞受賞の技術(細胞の再帰プログラミングを経たiPS細胞の生成[17])を応用したムオトリは、2010年に実験室環境下[18]自閉症の被験者[19]から採取したニューロンの形態および機能を遡及的に複数、変化させ、自閉症スペクトラム障害の治療に対する視点を提示し効果的な治療薬開発に結びつく突破口を開いた[10][20][8][21][9]

2016年、ウィリアムズ症候群の研究に使う細胞モデルを作成し、人間の社会的脳の細胞および分子基盤を研究する可能性を開いた[22][23][24][25]。同年、小頭症および先天性欠損症とブラジルで流行するジカウイルス感染症をめぐり、ムオトリは国外の協力者とともに関与を解明した[注釈 2][27][28]。開発した「ネアンデルタール人のミニ脳」(脳オルガノイド)は2018年、新しい科学分野である「神経考古学」(Neuroarchaeology)の創始[注釈 3]に結びつく[32]

2016年4月には、他の科学者と一緒にティモーポルトガル語版を設立、自閉症および関連症候群のオーダーメイド医療に焦点を当てた世界初のベンチャーを起業し[33][34][35][36]、本拠地サンパウロに加えアメリカにはサンディエゴマイアミの2ヵ所に拠点を置いた[37]。翌5月に世界で最も権威ある学術誌『Nature』に同社の投稿が載り[38][39][26]ブラジルジカウイルス流行と小頭症罹患率の高さとの因果関係を述べた研究を評価された[40][41][42]。脳オルガノイドの技術[43]はまた、大脳皮質奇形とブラジルのウイルスの株の機序とを比べ、ウイルスが神経学的病態の因子であると実証するのに役立った[44][45][46][47]

2017年12月、ムオトリは脳オルガノイド[48]を使った実験で、マラリア治療薬として60年にわたり使われてきたクロロキンジカ熱ワクチンとして機能すると発見した[46][49][50][51][46]

その後、学術誌『Nature』でムオトリらのC型肝炎治療薬ソフォスブビルは妊娠中の母親から胎児へのジカウイルス垂直感染の予防に、また治療薬にもできるとした研究[52]が報じられた(2018年1月発表)[53]

2019年7月25日、SpaceXという自律型ボックスに数十個の脳オルガノイドを備え、国際宇宙ステーション(ISS)に送り出し、1ヵ月にわたり宇宙空間でオルガノイドの示す反応実験を行った[54]自閉症アルツハイマー病その他の神経学的病態を課題とし、微小重力下の検証を目指した[55][56][57][58]。やがてこの研究の第2部として、2020年12月6日にもISSに向けて搬出した[59][60]

2020年12月8日に科学雑誌『EMBO molecular medicine(英語)でムオトリの研究班(アメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校)が発表した研究では、人間の脳オルガノイドを使ってMECP2遺伝子欠如に起因するレット症候群について原因因子を中和する2つの候補薬を特定すると、それぞれフェーズ3で臨床試験を開始できるとした(2薬は既にフェーズ1および2で承認され、人間が安全に摂取できると証明済み[要出典])。ムオトリ研究室で「治療」された脳オルガノイドは、レット症候群がないかのように振る舞い始めた[61]

新型コロナウイルスと脳への侵食について、岩崎明子(免疫学・イェール大学)主導の「(ウイルスが)感染者の脳細胞を乗っ取り、自己複製」する研究報告[62][63]について、「シナプスの数が感染から数日で急激に減少する」観察を支持し、元どおりになるかどうかは未知であるとした[64]

論争

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ムオトリはある意味、自閉症の関連で物議を醸す人物と見なされるようになると、自閉症当事者権利運動の一部の活動家から反発を買い、自閉症の治療を主張したり、障害にどのように対処するか意見を述べないようにと抗議を受ける[65]。ムオトリは2013年に自閉症に関心を持つ人たちの立場が一致していない点に触れて「G1」上で「自閉症に対する明確な答えはない」と書き[4]、後に「批判者たちが私の給料を払ってくれるわけではありません。〔私の給料を〕支払ってくれる人なら彼らとは逆のことを考えます[66]」と述べた。

主な著作

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発行年順。

受賞

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  • 2002年:中南米出身研究フェロー、博士号取得者(ピュー慈善信託フランス語版[73] ブラジル出身の遺伝子研究所助教授として(神経科学専門)。指導教授:フレッド・ゲージ Ph.D.。
  • 2009年:NIH革新者会長賞 研究事業助成金(2009年度分)総額231万7500アメリカドル、事業期間:自2009年9月30日至2014年6月30日 助成期間:自2009年9月30日至2014年6月30日[74]
  • 2011年:PopTech科学および公的指導者フェロー(カリフォルニア州立大学医学部)[75][76]
  • 2013年:NIMHエウレカ賞[77][注釈 4]
  • 2014年:NARSAD独立研究員助成金[78]アメリカ統合失調症うつ病研究機構「脳と行動研究財団」助成事業より2年間にわたり5万ドルずつ受給)[注釈 5]

脚注

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注釈

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  1. ^ キメラとは、2つの異なる種の細胞によって形成される生命体のこと[11][12]ISBN 9780195305241
  2. ^ 草稿は『Nature』誌(電子版掲載2016年5月11日)に続き『PMC』2016年11月1日号に掲載、印刷版採用は第534巻第7606号(2016年6月9日)、267-271ページ。doi:10.1038/nature18296、2018年4月13日閲覧(ISSN 1476-4687[26]
  3. ^ 生成されたキャプションは完全に的外れだが、BLEU1評価は高得点、SS Score評価はゼロ[29][30][31]
  4. ^ NIMH エウレカ賞の「eureka」とは、知識の加速を可能にする例外的で型破りな研究を指す。
  5. ^ 脳と行動研究財団助成事業とは、特に精神疾患分野においてキャリア半ばの研究者を対象とする。研究開発から十分な助成金を取り付けるまでのつなぎ助成を行う。2014年受給者は33の研究機関に所属する40名[79]

出典

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  60. ^ Sobre, Francisco (2020年11月27日). “Muotri envia 2ª etapa de sua pesquisa com minicérebros humanos para o espaço (Paiva Juior)” (ポルトガル語). Tismoo. 2021年1月13日閲覧。(ムオトリは、ミニ人間の脳研究の第2段階を宇宙に送ります〔『Paiva Juior』より〕)
  61. ^ Com minicérebros, Muotri encontra 2 medicamentos candidatos a tratar Síndrome de Rett” (ポルトガル語). Tismoo (2020年12月9日). 2021年1月13日閲覧。
  62. ^ 岩崎 明子、ウォン P.「免疫系の異様な暴走 : 肺や血管で何が起きているか (特集 COVID-19 重症化の謎)」『日経サイエンス』第51巻第3号、日経サイエンス、2021年3月、37-44頁、ISSN 0917-009XNAID 40022475767 
  63. ^ ニューヨークタイムズコロナ「脳細胞にまで侵入する」という新事実」『東洋経済オンライン』2020年9月17日、1面。2021年12月8日閲覧。
  64. ^ 東洋経済オンライン 2020, p. 2.
  65. ^ Introvertendo 109- Neurodiversidade: Os Autistas” (ポルトガル語). Introvertendo. 2020年10月16日閲覧。
  66. ^ Alysson Muotri: para ele, a cura é um fato. Basta alcançá-la” (ポルトガル語). Medictando. 2020年10月16日閲覧。(アリソン・ムオトリ:治療法は事実。それに到達するだけ)
  67. ^ Muotri, Alysson R.. Simples assim: células tronco. Atheneu . ISBN 9788538804765
  68. ^ Simples assim: células tronco” (ポルトガル語). www.oabrj.org.br. OAB/RJ. 2018年4月14日閲覧。(『実に簡単:幹細胞』)
  69. ^ “Livro sobre células-tronco será lançado no salão nobre da OAB/RJ” (ポルトガル語). OAB/RJ. https://oab-rj.jusbrasil.com.br/noticias/118054886/livro-sobre-celulas-tronco-sera-lancado-no-salao-nobre-da-oab-rj?ref=topic_feed. (幹細胞に関する本の頒布会をOAB / RJ本館で開催)
  70. ^ “Palestra e Lançamento do Livro de Alysson Muotri sobre Autismo” (ポルトガル語). A&R. http://autismo.institutopensi.org.br/eventos/palestra-e-lancamento-do-livro-de-alysson-muotri-29-de-maio-rio-de-janeiro/. (アリソン・ムオトリ新刊と講演、自閉症に関する著書)
  71. ^ Muotri, Alysson R.. Espiral — Conversas Científicas do Século XXI. Atheneu . ISBN 9788538807667.
  72. ^ (ポルトガル語) Cientista Alysson Muotri lança livro com artigos de dez anos de sua coluna no G1. https://g1.globo.com/ciencia-e-saude/noticia/cientista-alysson-muotri-lanca-livro-com-artigos-de-dez-anos-de-sua-coluna-no-g1.ghtml. (科学者アリソン・ムオトリ、G1コラムの10年分をまとめた本を出版)
  73. ^ Alysson Renato Muotri, Ph.D.” (ポルトガル語). www.pewtrusts.org. 2018年8月6日閲覧。(アリソン・レナート・ムオトリ Ph.D.)
  74. ^ generator, metatags. “Project Information - NIH RePORTER - NIH Research Portfolio Online Reporting Tools Expenditures and Results” (英語). projectreporter.nih.gov. 2018年8月6日閲覧。(プロジェクト情報 > NIHリポーター–NIHリサーチポートフォリオ—支出と成果のオンライン報告ツール)
  75. ^ UC San Diego’s Alysson Muotri named 2011 Poptech Science Fellow” (英語). UC San Diego School of Medicine. 2018年8月6日閲覧。(アリソン・ムオトリ、2011年ポップテク科学フェローを受任〔本学サンディエゴ校〕)[リンク切れ]
  76. ^ “UC San Diego’s Alysson Muotri Named 2011 PopTech Science and Public Leadership Fellow(AWARDS & RECOGNITION)” (pdf). Semi-Annual Newsletter(半期報告書) (UCSD 医学部小児科学科、ランディ=サンディエゴ子供病院(Department of Pediatrics, University of California San Diego; Rady Children's Hospital of San Diego)) 2011 (4/July-December): 20. https://medschool.ucsd.edu/som/pediatrics/about/pediatrics-newsletter/Documents/PediatricsNewsletter-July-Dec-2011.pdf 2021年12月7日閲覧。. 
  77. ^ RFA-MH-14-214: Exceptional Unconventional Research Enabling Knowledge Acceleration (EUREKA) for Neuroscience and Disorders of the Nervous System (R01)” (英語). grants.nih.gov. 2018年8月6日閲覧。(RFA-MH-14-214:神経科学および神経系の障害(R01)の例外的な型破りな研究、知識加速(EUREKA)を可能に)
  78. ^ (英語) Alysson R. Muotri, Ph.D.. (2017-03-22). https://www.bbrfoundation.org/about/people/alysson-r-muotri-phd. (アリソン・R・ムオトリ Ph.D)
  79. ^ Foundation Awards $4 Million in 40 New NARSAD Independent Investigator Grants” (英語). Brain & Behavior Research Foundation (2014年3月27日). 2021年12月8日閲覧。(財団より新NARSAD独立研究者40名に助成金400万ドルを授与)

関連項目

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外部リンク

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