アラン分散
アラン分散(Allan variance)は、時計、発振器、アンプにおける周波数安定度を表す指標である。名前はDavid W. Allanに由来し、数学的には と表される。 アラン偏差(Allan deviation)は、アラン分散の平方根である である。
アラン分散は統計的な安定度を推定するためのものであり、周波数ドリフトなどの系統的な誤差を推定するものではない。また、アラン分散には、修正アラン分散をはじめとするいくつかの派生形がある。
背景
編集水晶発振器や原子時計の安定性が調べられていた頃、位相ノイズにはホワイトノイズのみならず、フリッカー周波数ノイズも存在しているとわかった。これらのノイズの形は、推定値が収束しないため、標準偏差などの伝統的な統計ツールでは扱いが難しい。安定性を分析する初期の取り組みは、理論的な分析と実用的な測定の両方から行われた。[1][2]
この問題を解決するため、David AllanはM-サンプル分散を導入し、間接的にアラン分散(2-サンプル分散)を導入した。アラン分散では、全ての種類のノイズを見分けることはできないが、有意義な情報が得られる。IEEEはのちに、M-サンプル分散よりもアラン分散(2-サンプル分散)の方が望ましいとみなした。[3]
定義
編集振動と位相ノイズ
編集振動は以下の式で表される。
位相は以下のように表される。
は基準となる周波数を表し、 は位相ノイズを表す。
周波数
編集瞬間的な周波数は、位相の時間微分で表される。
規格化された周波数偏差
編集瞬間的な周波数の、基準となる周波数からの偏差を規格化して、以下の量を定義する。
規格化された周波数偏差の時間平均
編集規格化された周波数偏差の時間平均は以下のように定義される。
ここでτは平均化時間を表す。
アラン分散
編集n番目の周波数偏差を以下のように表すとする。
アラン分散は以下のように定義される。
ただし、 は期待値を表す。
アラン偏差
編集標準偏差と分散の関係と同様に、アラン偏差はアラン分散の平方根として定義される。
べき乗ノイズ
編集アラン分散は、さまざまなべき乗ノイズを見分けることができる。[4][5][6][7]
変調の種類 | パワースペクトル密度(位相ノイズ) |
パワースペクトル密度(周波数ノイズ) |
アラン分散 |
---|---|---|---|
白色位相変調 | |||
フリッカー位相変調 | |||
白色周波数変調 | |||
フリッカー周波数変調 | |||
ランダムウォーク周波数変調 |
アラン分散は、白色位相ノイズとフリッカー位相ノイズを見分けることができない。一方で、修正アラン分散ではこれらを見分けることができる。
線形応答
編集アラン分散は、位相や周波数に乗るノイズを見分けるためのものである。一方で、位相や周波数の線形な変化に対して依存性を示すことがある。
アラン分散の線形応答 Linear effect 時間応答 周波数応答 アラン分散 位相のオフセット 周波数のオフセット 周波数の線形ドリフト
上の表より、アラン分散は、位相や周波数に定数のオフセットがついても変化しないが、周波数が線形に変化すると影響を受ける。[6]
関連項目
編集出典
編集- ^ Cutler, L. S.; Searle, C. L. (February 1966), “Some Aspects of the Theory and Measurements of Frequency Fluctuations in Frequency Standards”, Proceedings of the IEEE 54 (2): 136–154, doi:10.1109/proc.1966.4627, オリジナルの2022-10-09時点におけるアーカイブ。
- ^ Leeson, D. B (February 1966), “A simple Model of Feedback Oscillator Noise Spectrum”, Proceedings of the IEEE 54 (2): 329–330, doi:10.1109/proc.1966.4682, オリジナルの1 February 2014時点におけるアーカイブ。 20 September 2012閲覧。
- ^ “Definitions of physical quantities for fundamental frequency and time metrology – Random Instabilities”. IEEE STD 1139-1999. (1999). doi:10.1109/IEEESTD.1999.90575. ISBN 978-0-7381-1753-9.
- ^ J. A. Barnes, A. R. Chi, L. S. Cutler, D. J. Healey, D. B. Leeson, T. E. McGunigal, J. A. Mullen, W. L. Smith, R. Sydnor, R. F. C. Vessot, G. M. R. Winkler: Characterization of Frequency Stability, NBS Technical Note 394, 1970.
- ^ J. A. Barnes, A. R. Chi, L. S. Cutler, D. J. Healey, D. B. Leeson, T. E. McGunigal, J. A. Mullen, Jr., W. L. Smith, R. L. Sydnor, R. F. C. Vessot, G. M. R. Winkler: Characterization of Frequency Stability, IEEE Transactions on Instruments and Measurements 20, pp. 105–120, 1971.
- ^ a b Bregni, Stefano: Synchronisation of digital telecommunication networks, Wiley 2002, ISBN 0-471-61550-1.
- ^ NIST SP 1065: Handbook of Frequency Stability Analysis .