セントポーリア
セントポーリア(学名:Saintpaulia)はイワタバコ科の属のひとつ。セントポーリア属の総称。和名はアフリカスミレ属(英名 African violet の和訳)。
セントポーリア | ||||||||||||||||||
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アフリカスミレ(Saintpaulia ionantha)
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分類 | ||||||||||||||||||
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属 | ||||||||||||||||||
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ケニア南部とタンザニア北部の山地に生息する非耐寒性の多年草。属名は発見者であるドイツ人ヴァルター・フォン・セントポール=イレール(de:Walter von Saint Paul-Illaire)に献名されている。
花言葉は『小さな愛』
形態
編集生長形態により、ロゼット型とトレイル型の二型に分けられる。ロゼット型は節間が極めて短く、葉がタンポポのように放射状に広がる。トレイル型は節間が長く、地面を這うようにして長い茎が形成される。
花は左右相称の合弁花で、2裂した上唇と3裂した下唇から成る。裂片は下唇の方が大きい。花弁は紫色または薄紫色で、花筒は短く、舷部はほぼ直角に広がる。黄色の葯をもつ2本の雄蕊が筒部から突出している。花柱と柱頭は、花弁と同じ紫色である。花梗は葉腋から伸び、集散花序になる。
葉身は楕円形または卵形で、縁は全縁または鋸歯が入ることもある。葉身には葉毛が生えているが、その長さや形態は種により異なり、開出毛、伏毛など様々である。
分布
編集ケニア南部とタンザニア北部の山地に20種が知られている。分布の中心はタンザニアのウサンバラ山地(Usambara Mountains)周辺で、16種が生息している。この他に、タンザニアではヌグル山地(Nguru Mountains)に5種、ウルグル山地(Uluguru Mountains)に3種、ウカグル山地(Ukaguru Mountains)に1種、ケニアではテイタ丘陵(Teita Hills)に1種が知られている。
生態
編集他の多くのイワタバコ科植物と同様に、主として冷涼な日陰、多湿の環境を好み、渓谷沿いの断崖の湿った岩壁や、熱帯雨林の苔むした樹木に着生する。日本のイワタバコやシシンランの生育環境を思い浮かべると、こうしたイワタバコ科の植物の生育に好適な環境は想像しやすい。なお、ウサンバラ山地、ウルグル山地、テイタ丘陵では、農地利用のための森林伐採により林床が乾燥し、セントポーリアの生息地が年々減少している。
発見までの歴史
編集- 1884年 ザンジバルのイギリス副領事をしていたジョン・カークがセントポーリアを採取し、イギリスのキュー王立植物園に送るが、不充分な標本であったために記載までには至らなかった。
- 1887年 牧師であったW.E.テイラーがケニア南東でセントポーリアを採取し、大英博物館に送るが、またしても標本は不充分であったため、記載には至らなかった。
- 1891年 ドイツ人フォン・セントポール男爵がウサンバラ山地でセントポーリアを発見し、ドイツに住む父を通じてハノーファーのヘレンハウゼン王宮庭園へ送った。植物園長ヘルマン・ヴェンドランドにより新属新種として記載され、発見者の名前に因んで Saintpaulia ionantha と命名された。
原種
編集原種の分類に関しては様々な議論があるが、ここでは最も一般的な24種を紹介する。ここに記した以外にも数種の変種が知られている。
- イオナンタ Saintpaulia ionantha H. Wendl.
- 最初に発見されたセントポーリアで、タンザニアに生息する。通常、花は紫色だが、白色の花を咲かせる変異種「ホワイト・イオナンタ」が知られている。なお、種小名のionanthaとは、ギリシャ語で「スミレのような」の意。
- インコンスピキュア S. inconspicua B.L. Burtt
- タンザニアのウルグル山地に生息。
- インターメディア S. intermedia B.L. Burtt
- タンザニアのウサンバラ山地東部に生息。
- オービキュラリス S. orbicularis B.L. Burtt
- タンザニアのウサンバラ山地西部に生息。
- オービキュラリス・パープレア S. orbicularis var. purpurea B.L. Burtt
- タンザニアのウサンバラ山地西部に生息。オービキュラリスの変種。
- グランディフォーリア S. grandifolia B.L. Burtt
- タンザニアのウサンバラ山地西部に生息。種小名grandifoliaは「大きな葉」の意。
- グロッティ S. grotei Engler
- タンザニアのウサンバラ山地東部に生息。
- ゲッツアーナ S. goetzeana Engler
- タンザニアのウルグル山地に生息。
- コンフューサ S. confusa B.L. Burtt
- タンザニアのウサンバラ山地とヌグル山地に生息。種小名confusaはconfusion(混同)に由来。以前、他の種と混同されていたことによる。
- シュメンシス S. shumensis B.L. Burtt
- タンザニアのウサンバラ山地西部に生息。
- テイテンシス S. teitensis B.L. Burtt
- ケニアのテイタ丘陵に生息。種小名teitensisは、生息地であるテイタ丘陵(Teita Hills)に由来。
- ディフィシリス S. difficilis B.L. Burtt
- タンザニアのウサンバラ山地東部に生息。
- ディプロトリカ S. diplotricha B.L. Burtt
- タンザニアのウサンバラ山地東部に生息。種小名のdiplotrichaは、「多数の毛」の意であり、葉に多数の葉毛が生えていることによる。
- トングエンシス S. tongwensis B.L. Burtt
- タンザニアのウサンバラ山地東部のトングエ山に生息。種小名tongwensisは、生息地であるトングエ山(Mt. Tongwe)に由来。
- ニチダ S. nitida B.L. Burtt
- タンザニアのヌグル山地に生息。
- プシラ S. pusilla Engler
- タンザニアのウルグル山地に生息。
- ブレビピローサ S. brevipilosa B.L. Burtt
- タンザニアのヌグル山地に生息。
- ベルチナ S. velutina B.L. Burtt
- タンザニアのウサンバラ山地西部に生息。
- ペンジュラ S. pendula B.L. Burtt
- タンザニアのウサンバラ山地東部に生息する。
- ペンジュラ・キザレ S. pendula var. kizarae B.L. Burtt
- タンザニアのウサンバラ山地東部に生息するペンジュラの変種。種小名kizaraeは、初めて発見された場所がキザラ(kizara)だったことに由来。
- マグンゲンシス S. magungensis E. Roberts
- タンザニアのウサンバラ山地東部に生息。2種類の変種が知られている。
- マグンゲンシス・ミニマ S. magungensis var. minima B.L. Burtt
- タンザニアのウサンバラ山地東部に生息する。マグンゲンシスの変種。
- マグンゲンシス・オキシデンタリス S. magungensis var. occidentalis B.L. Burtt
- タンザニアのウサンバラ山地西部に生息する。マグンゲンシスの変種。
- ルピコーラ S. rupicola B.L. Burtt
- ケニア南部の平地に生息。
園芸品種
編集これまでに多種多様な園芸品種が作出され、その数は2万種とも3万種とも言われている。花色は赤、紫、青、白など多彩で、色合いにも、覆輪(花弁の縁に色がつく)、アイ(花の中心にだけ色がつく)、ストライプ(縞模様が入る)、スプラッシュ(斑点や斑状紋が入る)などがある。花形には、プレーン形(原種と同じ)、スター形(星の形)、フリル形(縁や花弁全体がフリルになる)などがあり、咲き方にはシングル咲き(花弁が一重)、セミダブル咲き(花弁が一重半)、ダブル咲き(花弁が二重)、フルダブル咲き(花弁が八重)がある。葉の形も多様で、プレーン形(葉身が楕円形で全縁)、スプーン形(縁が巻き上がる)、フリル形(縁が波打つ)、ウェーブ形(葉全体がうねる)などがある。
園芸品種は、それぞれの種の特徴により、以下のような種類に分けられる。
- 普通種
- 主に原種のイオナンタとコンフューサから作出された種類。茎が直立し、少しずつ伸長しながら葉を展開するため、ロゼットとなる。
- ミニチュア種、セミミニチュア種
- 普通種のうち、サイズが小型のもの。
- アルビノ種(斑入り種)
- 葉に白や薄いピンクの斑が入る種類。
- トレイル種
- 茎がつる状に伸びる性質のもの。
- ラプソディ種
- ドイツのホルトキャンプ社で作出され、1968年に販売された。
- バレー種
- ラプソディ種の改良種で、アメリカのフィッシャーで作出された。
- オプティマラ種
- 1970年代にアメリカで作出。品種名には、アメリカ、カナダの都市名や、女性の名前などが付けられている。
- メロディー種
- 1980年代にアメリカのサニーサイドナーセリーがラプソディ種から作出した。
日本における栽培
編集日本では1970年代からラプソディ種が販売され、人気を集めた。川上敏子(1915年-2010年)は、日本の気候に適した室内栽培法を考案し、日本におけるセントポーリアの普及に努めた第一人者である。