ニホンヒキガエル
ニホンヒキガエル(Bufo japonicus)は、ヒキガエル属に分類されるカエル。
ニホンヒキガエル | |||||||||||||||||||||||||||
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アズマヒキガエル
Bufo japonicus formosus | |||||||||||||||||||||||||||
保全状況評価[1] | |||||||||||||||||||||||||||
LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) | |||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||
Bufo japonicus Temminck & Schlegel, 1838 | |||||||||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||||||||
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和名 | |||||||||||||||||||||||||||
ニホンヒキガエル ヒキガエル | |||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||
Japanese toad |
分布
編集- B. j. japonicus ニホンヒキガエル
- 日本(鈴鹿山脈以西の近畿地方南部から山陽地方、四国、九州、屋久島に自然分布)固有亜種[2][3][4][5][6]。
- 東京都、仙台市などに移入[5][6]。
- B. j. formosus アズマヒキガエル
- 日本(東北地方から近畿地方、島根県東部までの山陰地方北部に自然分布)固有亜種[2][3][4]。
- 伊豆大島、八丈島、佐渡島、北海道(函館市など)などに移入[3][5][6]。
東京都においては在来種のアズマヒキガエルと移入種のニホンヒキガエルとの間で交雑が進んでおり、種の保存や生物多様性の観点から懸念されている[7]。一方で、都内の本種幼生(オタマジャクシ)は周辺各県のオタマジャクシよりも有意に高い生存率を示しており、交雑により都市での適応度が上がり個体数維持に成功しているとの見解もある[8]。
形態
編集体色は褐色、黄褐色、赤褐色などで、白や黒、褐色の帯模様が入る個体もいる[6]。体側面に赤い斑点が入る個体が多く、背にも斑点が入る個体もいる[6]。
- B. j. japonicus ニホンヒキガエル
- 体長7 - 17.6センチメートル (cm) [3][4]。鼓膜は小型で、眼と鼓膜間の距離は鼓膜の直径とほぼ同じ[2][3][4]。
- B. j. formosus アズマヒキガエル
- 体長6 - 18 cm[4]。鼓膜は大型で[4]、眼と鼓膜間の距離よりも鼓膜の直径の方が大きい[2]。
亜種アズマヒキガエルの幼生(オタマジャクシ)は全長3 cmで、体色は黒色や濃褐色[6]。
四六のガマと呼ばれるが、前肢の指は4本、後肢の指は5本。繁殖期のオスにはメスを抱接する際に滑り止めとして後肢にコブ(婚姻瘤)ができるためそれを6本目の指と勘違いしたと思われる[要出典]。
分類
編集ホンヒキガエルはBufo japonicusとして1838年として記載される以前の1826年にB. praetextatusとして記載されていた。しかしながら、B. praetexatusの記載に用いられた標本は不明であり、そちらの学名はほとんど用いられていないため、B. japonicusが有効な学名として用いられる[9]。一部の論文ではB. praetexatusが有効でありB. japonicusはそのシノニムであると主張されているが[10]、日本爬虫両棲類学会の見解では2024年時点でB. japonicusが有効とされる[11]。
以前はヨーロッパヒキガエルの亜種とされていたが、分割され独立種となった[3]。ヘモグロビンの電気泳動法による解析では、両亜種の解析結果がナガレヒキガエルとは類似するもののヨーロッパヒキガエルとは系統が異なる(近縁ではない)と推定されている[12]。
北海道(移入)や東北地方の山岳部個体群は体長6 - 9 cmと小型で、鼓膜が大型なため、エゾヒキガエルや亜種ヤマヒキガエルB. j. montanusとして分割する説もあったが[2][3][4]、体長以外に差異がないことから亜種アズマヒキガエルのシノニムとされる[6]。
- Bufo japonicus japonicus Temminck & Schlegel, 1838 ニホンヒキガエル、サツマヒキガエル
- Bufo japonicus formosus Boulenger, 1883 アズマヒキガエル
北海道では1912年7月2日に北海道庁立函館高等女学校(現北海道函館西高等学校)で初めて発見された[13]。その後旭川市・室蘭市でも繁殖が確認され、道内各地(札幌市・石狩市・江別市・深川市等)で次々と捕獲例がある[14]。上記のとおり当初は北海道固有亜種と考えられたが、関東の個体群と同じであるという遺伝子解析結果から国内外来種であることが明らかとなっている[15]。函館市では現在もなお「希少なエゾヒキガエル」として扱っており、外来種としての認識は低い[13]。道内では本種の天敵となるヤマカガシが生息しておらず、本種の定着拡大や捕食による昆虫への悪影響が懸念される[15]。
生態
編集低地から山地にある森林やその周辺の草原などに生息し、農耕地、公園、民家の庭などにも広く生息する[3][4]。本種は都市化の進行にも強い抵抗力を示し、東京の都心部や湾岸地域でも生息が確認されている。
本種を含め、ヒキガエル類は水域依存性の極めて低い両生類である。成体は繁殖の際を除いて水域から離れたまま暮らしており、とりわけ夏季には夜間の雑木林の林床や庭先等を徘徊している姿がよくみられる。体表のイボや皺は空気中における皮膚呼吸の表面積を最大化するためと考えられている。また後述のように、繁殖に必要とする水域規模もまた、相対的に小さくて済むようになっている。
食性は動物食で、昆虫、ミミズなどを食べる[3][4]。ブフォトキシン(ブホトキシン)という毒を持つ有毒種であるため、天敵は少ないが[16]、ヤマカガシは本種の毒に耐性があるようで、本種を好んで捕食する[4]。ヤマカガシの頚部から分泌される毒は、本種の毒を貯蓄して利用していることが判明している[17]。また、オオキベリアオゴミムシの幼虫は小さなカエル・オタマジャクシを捕食する習性があるが[18]、本種も捕食した記録がある[19]。
繁殖形態は卵生。繁殖期は地域変異が大きく南部および低地に分布する個体群は早く(屋久島では9月)、北部および高地に分布する個体群は遅くなる傾向があり(立山や鳥海山では7月)[5]。池沼、水たまり、水田などに長い紐状の卵塊に包まれた1,500-14,000個(基亜種6,000-14,000個、亜種アズマヒキガエル1,500-8,000個)の卵を産む[6]。多数個体が一定の水場に数日から1週間の極めて短期間に集まり繁殖する(ガマ合戦、蛙合戦)[5][6]。南部個体群は繁殖期が長期化する傾向があり、例として分布の南限である屋久島では日本で最も早い9月の産卵例、11月の幼生の発見例(10月に産卵したと推定されている)、1-3月の繁殖例、3-4月の産卵例がある[5]。繁殖期のオスは動く物に対して抱接しようとし、抱接の際にオスがメスを絞め殺してしまうこともある[6]。幼生は1 - 3か月で変態する[6]。
大柄な姿に反して幼生期間は短く、仔ガエルに変態した時の体長はわずか5〜8mmである。これは、水の乏しい地域で短期間しか存在しない水たまり等でも繁殖できるよう進化がすすんだためと考えられている。
人間との関係
編集形態や有毒種であることから忌み嫌われる一方で民家の庭などに住みつくこともよくあり、人間の身近で生活する動物とも言える。
かつては本種の皮膚から分泌される油汗をガマの油と称して薬用にしたとされるが、実際に外傷に薬として用いられたのは馬油(ウマの油)や植物のガマの方であるとも言われており、実際のところは不明である[20]。2016年現在において種村製薬から発売されている商品は、その配合も含めて第二次世界大戦後に作られたものである[21]。ただし、「ガマの油」とは別にヒキガエルの耳下腺分泌物には薬効があり、それを小麦粉で練ったものは蟾酥といい[22]、強心や抗炎症などに用いた[23]。
アズマヒキガエルについては、北海道で持ち込まれた種が繁殖したため、2017年に指定外来種に指定された。深川市などを中心に駆除が進められている[24]が、2018年には札幌市でも生息が確認されるようになり、強い繁殖力と皮膚から分泌するアルカロイド系の強い毒(北海道固有種のエゾアカガエルがアズマヒキガエルの孵化したばかりの幼生を食べた場合、100%死亡する)から、絶望的な状況と考えられている[25]。
ギャラリー
編集-
頭部の拡大
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幼体
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上陸直後の幼体
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卵塊
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包接中の本種
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(動画) アズマヒキガエル
脚注
編集- ^ “Bufo japonicus (Japanese Common Toad)”. International Union for Conservation of Nature and Natural Resources. 2012年5月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年4月9日閲覧。
- ^ a b c d e 海老沼剛 『爬虫・両生類ビジュアルガイド カエル1 ユーラシア大陸、アフリカ大陸とマダガスカル、オーストラリアと周辺の島々のカエル』、誠文堂新光社、2006年、23頁。
- ^ a b c d e f g h i j 千石正一監修、長坂拓也、池田純『爬虫類・両生類800種図鑑』ピーシーズ、1996年7月、297頁。ISBN 4938780151。国立国会図書館書誌ID:000002599525 。
- ^ a b c d e f g h i j 深田祝監修 T.R.ハリディ、K.アドラー編 『動物大百科12 両生・爬虫類』、平凡社、1986年、69頁。
- ^ a b c d e f 松井正文 「カエル類の繁殖 -日本産普通種を見直す-」『ハ・ペト・ロジー』Vol.3、誠文堂新光社、2005年、66-67頁。
- ^ a b c d e f g h i j k l 松橋利光、奥山風太郎 『山溪ハンディ図鑑9 日本のカエル+サンショウウオ類』、山と溪谷社、2002年、26-39、108頁。
- ^ “東京のヒキガエル、西日本型に侵略される”. 東京大学 (2013年5月9日). 2019年2月21日閲覧。
- ^ “東京のヒキガエル、混血で生存率アップ”. 科学技術振興機構 (2013年5月10日). 2019年2月21日閲覧。
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- ^ 酒井雅博 (2014年10月). “オオキベリアオゴミムシ:愛媛県レッドデータブック”. 香川県 公式ウェブサイト. 愛媛県. 2020年6月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年6月11日閲覧。 - 『愛媛県レッドデータブック』(2014年10月刊行)より
- ^ Kôji Sasakawa(笹川幸治)「Notes on the preimaginal stages of the ground beetle Chlaenius (Epomis) nigricans Wiedemann, 1821 (Coleoptera: Carabidae)」『Biogeography』第19巻、日本生物地理学会、2017年9月20日、167-170頁、doi:10.11358/biogeo.19.167、ISSN 1880-8085。
- ^ “【2010年9月号】油の雑学”. 養命酒製造株式会社. 2016年9月4日閲覧。
- ^ “種村製薬 « 絶品いばらき”. 一般社団法人茨城県観光物産協会. 2016年9月4日閲覧。
- ^ “生薬のはなし 蟾酥(センソ)その一”. 救心製薬株式会社. 2016年9月4日閲覧。
- ^ “生薬のはなし 蟾酥(センソ)その二”. 救心製薬株式会社. 2016年9月4日閲覧。
- ^ “アズマヒキガエルの駆除について”. 深川市ホームページ (2017年8月1日). 2018年5月6日閲覧。
- ^ “生態系に深刻な影響も 札幌で“毒ガエル”が大量発生なぜ?”. FNN.jpプライムオンライン (2019年6月17日). 2019年6月19日閲覧。