アシロ目
アシロ目(学名: Ophidiiformes)は、硬骨魚類の分類群の一つ。2亜目5科で構成され、100属380種以上が所属する大きなグループである。サンゴ礁域から海溝の深部に至るまで、幅広い分布域をもつ。一部に淡水魚・汽水魚も含む。
アシロ目 | |||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ソコボウズ(Spectrunculus grandis)
| |||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||
|
概要
編集アシロ目の魚類はほとんどが海水魚であるが、フサイタチウオ科の一部は淡水域に生息する。深海に生息する種類が多く、アシロ科に所属するヨミノアシロは世界最深地点(水深8,370m)で確認された魚類である。
体型は細長く、タラ類に似て尾部が伸長している。腹鰭は喉の位置にあり、鰭としての形態は不明瞭で1-2本の軟条からなる。背鰭と臀鰭の基底は長く、尾鰭とつながっていることが多い。長い鰭と体をくねらせるようにして、海底近くを遊泳する底生魚である。吻部の両側に二対の鼻孔を持つ。
分類
編集アシロ目はアシロ亜目とフサイタチウオ亜目の2亜目からなり、アシロ科・カクレウオ科・フサイタチウオ科・ソコオクメウオ科・ニセイタチウオ科の5科、100属が設置される[1]。少なくとも385種が含まれるが、多数の未記載種の存在が知られており、分類はさらに拡大するとみられる。
アシロ亜目
編集アシロ亜目 Ophidioidei にはアシロ科およびカクレウオ科が含まれ、およそ55属253種が所属する。卵生で、雄は交接器を持たない点でフサイタチウオ亜目とは区別される。背鰭・臀鰭と連続した尾鰭を持つ。カクレウオ科は浅い海域に生息するが、アシロ科には深海魚が多い。
アシロ科
編集アシロ科 Ophidiidae は4亜科48属222種を含み、アシロ目で最大のグループとなっている。背鰭の鰭条の長さは臀鰭と同じか、あるいはさらに長い。肛門と臀鰭の起始部は胸鰭よりも後方にある。ほぼ全ての属が深海で底生生活を送る。食用魚として利用される大型種は南半球に多い[3]。
- イタチウオ亜科 Brotulinae 1属5種。吻(口先)と顎にヒゲがある。
- イタチウオ属 Brotula
- Brotulotaeninae 亜科 1属4種。ヒゲはない。
- Brotulotaenia 属
- アシロ亜科 Ophidiinae 8属54種。ヒゲはなく、腹鰭の位置は極端に前寄りである。リング(Genypterus blacodes)は輸入食用魚として知られる。
- アシロ属 Ophidion
- 他7属(Genypterus など)
- シオイタチウオ亜科 Neobythitinae 38属159種。腹鰭を欠く種類がある。沿岸から超深海帯まで、分布域は広範囲にわたる。本亜科は単系統ではない。
- イトヒキイタチウオ属 Homostolus
- ウミドジョウ属 Sirembo
- オザワアシロ属 Bathyonus
- クマイタチウオ属 Monomitopus
- クロウミドジョウ属 Luciobrotula
- シオイタチウオ属 Neobythites
- シロチョウマン属 Glyptophidium
- タライタチウオ属 Porogadus
- ハゴロモアシロ属 Mastigopterus
- ハダカイタチウオ属 Spectrunculus
- ハナトゲアシロ属 Acanthonus
- ハリダシアシロ属 Xyelacyba
- ヒメイタチウオ属 Pycnocraspedum
- フクメンイタチウオ属 Bassozetus
- フリソデアシロ属 Eretmichthys
- モモイタチウオ属 Dicrolene
- ヨミノアシロ属 Abyssobrotula
- ヨロイイタチウオ属 Hoplobrotula
- リュウジンアシロ属 Alcockia
- 他19属
カクレウオ科
編集カクレウオ科 Carapidae は7属31種からなる。幼生は背鰭の第1棘が長く伸びた独特の形態をしている。背鰭の鰭条は臀鰭のそれよりも短い。肛門と臀鰭の起始部は体の前方、普通は胸鰭よりも前にある。鰓は大きく開き、鰓蓋骨にはトゲがない。本科魚類の多くはナマコや貝類の体内に隠れ住む習性を持つ。幼生期は2期に分けられ、第1期には浮遊生活を送るが、第2期には背鰭・体長がともに短くなり、この時期に他生物との共生を開始するとみられている。
- オニカクレウオ亜科 Pyramodontinae 2属5種。胸鰭は頭部とほぼ同じ長さ。
- オニカクレウオ属 Pyramodon
- Snyderidia属
- カクレウオ亜科 Carapinae 5属26種。胸鰭の長さは頭部よりずっと短い。腹鰭を欠く。
- カクレウオ属 Encheliophis
- クマノカクレウオ属 Echiodon
- シロカクレウオ属 Carapus
- シンジュカクレウオ属 Onuxodon
- ソコカクレウオ属 Eurypleuron
フサイタチウオ亜目
編集フサイタチウオ亜目 Bythitoidei はフサイタチウオ科、ソコオクメウオ科およびニセイタチウオ科を含み、およそ45属130種以上から構成される。卵胎生で、雄は属・種ごとに形態の異なる交接器を持ち、分類に利用されている。尾鰭は背鰭・臀鰭と連続するか、あるいは独立している。
フサイタチウオ科
編集フサイタチウオ科 Bythitidae は37属107種を含む。尾鰭の連続性に基づき、2亜科(BythitinaeおよびBrosmophycinae)に細分されることもある。鱗と浮き袋をもち、鰓蓋骨には鋭いトゲがある。サンゴ礁から深海まで幅広く分布し、約5種が淡水・汽水域に生息する。浅海に生息する種類は一般に小型・夜行性であり、未記載種が多数存在するため今後分類が拡大する可能性がある[3]。Lucifuga 属には6種の盲目魚が含まれ、鍾乳洞などに生息している。
- オオソコイタチウオ属 Cataetyx
- サラサイタチウオ属 Saccogaster
- サンゴイタチウオ属 Brotulina
- セダカイタチウオ属 Oligopus
- ネッタイイタチウオ属 Brosmophyciops
- フサイタチウオ属 Abythites
- ボライタチウオ属 Diplacanthopoma
- リュウキュウイタチウオ属 Dinematichthys
- 他29属(Diancistrus、Ogilbiaなど)
ソコオクメウオ科
編集ソコオクメウオ科 Aphyonidae は6属22種を含む。眼は退化的で、鱗と浮き袋がない。鰓蓋骨のトゲはないか、あるいは小さい。ほとんどの種類は700m以深に生息する。
- ソコオクメウオ属 Barathronus
- 他5属(Aphyonus、Meteoria、Nybelinella、Parasciadonus、Sciadonus)
ニセイタチウオ科
編集ニセイタチウオ科 Parabrotulidae は2属3種を含む。ウナギのように細長く、腹鰭を持たない。本科の分類学上の位置に関しては議論があり、アシロ目に含めないとする見解もある[4]。
- Leucobrotula 属
- Parabrotula 属
脚注
編集参考文献
編集- 上野輝彌・坂本一男 『新版 魚の分類の図鑑』 東海大学出版会 2005年 ISBN 978-4-486-01700-4
- 岡村収・尼岡邦夫監修 『日本の海水魚』 山と溪谷社 1997年 ISBN 4-635-09027-2
- 北村雄一 『深海生物図鑑』 同文書院 1998年 ISBN 4-8103-7503-X