ハコベ
ハコベ(繁縷、蘩蔞[1])とは、ナデシコ科ハコベ属(Stellaria)の植物。「ハコベ」は一般にはコハコベとミドリハコベを総称していう[2][3]。単にハコベというときはコハコベのことを指す場合もある[4]。コハコベは越年草。ハコベラ、アサシラゲ、ヒヨコグサなどともよばれる[3][1]。
ハコベ属 | ||||||||||||||||||
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コハコベ (Stellaria media)
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分類(APG III) | ||||||||||||||||||
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種 | ||||||||||||||||||
約90-120種。本文参照 |
なお、ハコベ類の分類には混乱が指摘されているほか、Stellaria media (L.) Vill.とS. neglecta Weiheの二種に対応する和名がハコベとミドリハコベとするものとコハコベとミドリハコベとするものがあるなど問題が指摘されている[5]。
コハコベ、ミドリハコベともに昔から「はこべら」とよばれ親しまれ、春の七草のひとつになっている[3][6]。名の由来は、日本最古の本草書『本草和名』(918年)に、波久部良(はくべら)として登場しており、これが転訛したものと考えられているが、ハクベラの語源についてはわかっていない[3]。市販されている七草は一般にコハコベである[5]。コハコベは幕末から明治初頭にかけての時期に国内で普通に見られたとする記録がある[5]一方、日本に入ってきたのは明治時代だとする指摘もある[7]。ミドリハコベはもともと日本に生育していた種とされ[7]、春の七草はミドリハコベとする文献もある[2]。
生け垣のわき、道端、畑、野原などに自生し、春に茎の先や葉腋に白い5花弁を開くが、花弁の先が2つに深く切れ込んでいるため10弁に見える[3][1]。先が尖った卵形の葉が、茎に向かい合ってつく[1]。全草に葉緑素(クロロフィル)を含み、昔から食用植物として知られ[注 1]、春の若い茎葉を茹でてお浸しなどにして食べたり[3]、小鳥の餌としても馴染みがある[8]。全体に緑色のミドリハコベと、茎が暗紫色を帯びて小型のコハコベともに薬用植物としても知られ、花期の茎葉を干し上げたものは生薬となり、繁縷(はんろう、ハコベ)と称している[3]。繁縷を粉末にして同量の塩と混ぜたものは「ハコベ塩」といい、歯槽膿漏防止に役立つ歯磨き粉代わりに利用された[3]。
ここでは、主にハコベ属について記す。
ハコベ属の特徴
編集高さ10 cmから20 cm[9]の背の低い草本で、一年草、越年草または多年草。茎は株状になるか1本立ちになり、よく枝分かれして密集した群落を作る。茎には節があり、節ごとに葉を対生する。葉は扁平で、茎の下部に葉柄があるものと無いものがある。花は集散花序か茎先や葉腋に単生する。萼片は5個。花弁は白色で5弁であるがウサギの耳のように根元近くまで深く2裂するものがあるため一見では10弁に見える[2]。まれに花弁が退化して無いものもある。雄蕊はふつう10個。花柱はふつう3個。果実は蒴果でふつう6裂する。
世界に約120種あり、日本には約18種ある。
日本の主な種
編集人里や低地、草地に出現する種
編集- ウシハコベ Stellaria aquatica (L.) Scop.
- イトハコベ Stellaria filicaulis Makino
- エゾハコベ Stellaria humifusa Rottb.
- ナガバツメクサ Stellaria longifolia Muhl. ex Willd.
- コハコベ Stellaria media (L.) Villars
- ミドリハコベ Stellaria neglecta Weihe
- 別名、ヒヨコグサ。英語では chickweed といって、「ニワトリの草」の意味で、鳥や小動物の餌にする。[4]
- 日本全土、アジア、ヨーロッパ、アフリカの温帯・亜熱帯に広く分布する。道端、空き地、畑など、コハコベと同じよう場所に生えている。[4]
- コハコベよりも大型で、成長した際の高さは15 - 50 cmくらいになる。茎はほとんど緑一色[6]。葉は卵型となり、短い柄をつけ、対生する。春 - 夏に径6 - 7 mmの白い五弁の花をつける。花びらは小さく目立たないが、よく見ると細い花びらが10枚あるように見える。これは、5枚の花びらがそれぞれ2つに深く基部まで裂けているためである[6]。
- 花柱は3個、雄しべは5 - 10個[4]。この数はハコベの識別点にもなっている[6]。
- エゾオオヤマハコベ Stellaria radians L.
- ノミノフスマ Stellaria uliginosa Murray var. undulata (Thunb.) Fenzl
- ハコベの名を持たないがハコベ属。シノニム:Stellaria alsine Grimm var. undulata (Thunb.)
- 日本全土、朝鮮半島、中国などに分布。野原や畑などに生える。[10]
- 全体に無毛。葉は他のハコベと違って細い楕円形でハート形にならない。花弁は2裂し、花柱は5個ある。[10]
山間部や谷間に出現する種
編集- オオハコベ Stellaria bungeana Fenzl var. stubendorfii (Regel) Y.C.Chu
- サワハコベ Stellaria diversiflora Maxim.
- ヤクシマハコベ Stellaria diversiflora Maxim. var. yakumontana (Masam.) Masam.
- シラオイハコベ Stellaria fenzlii Regel
- オオヤマハコベ Stellaria monosperma Buch.-Ham. ex D.Don var. japonica Maxim.
- ミヤマハコベ Stellaria sessiflora Yabe
- ヤマハコベ Stellaria uchiyamana Makino
- アオハコベ Stellaria uchiyamana Makino var. apetala (Kitam.) Ohwi
- カンチヤマハコベ Stellaria calycantha (Ledeb.) Bongard
- イワツメクサ Stellaria nipponica Ohwi var. nipponica
- オオイワツメクサ Stellaria nipponica Ohwi var. yezoensis H.Hara
- エゾイワツメクサ Stellaria pterosperma Ohwi
- シコタンハコベ Stellaria rusifolia Pall.
ハコベと名の付く植物
編集ハコベは身近な柔らかい雑草の代表として、多少似たところのある類縁のない植物の名としても使われている。以下のような例がある。
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ a b c d e 金子初代 2010, p. 23.
- ^ a b c NPO法人 自然観察大学『子どもと一緒に見つける 草花さんぽ図鑑』永岡書店、2019年、21頁。
- ^ a b c d e f g h 田中孝治 1995, p. 102.
- ^ a b c d e 近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著 2010, p. 184.
- ^ a b c 三浦励一『コハコベとミドリハコベの比較生態学的研究』京都大学〈博士 (農学) 乙第10676号〉。NAID 500000204488 。2019年9月23日閲覧。
- ^ a b c d e f 亀田龍吉 2019, p. 26.
- ^ a b 手柄山温室植物園. “30.ミドリハコベ(ナデシコ科ハコベ属)”. 2019年9月23日閲覧。
- ^ 菱山忠三郎 2014, p. 46.
- ^ 久志博信『「山野草の名前」1000がよくわかる図鑑』主婦と生活社、2010年、16ページ、ISBN 978-4-391-13849-8
- ^ a b c d 近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著 2010, p. 185.
- ^ 亀田龍吉 2019, p. 27.
参考文献
編集- 金田初代、金田洋一郎(写真)『ひと目でわかる! おいしい「山菜・野草」の見分け方・食べ方』PHP研究所、2010年9月24日、23頁。ISBN 978-4-569-79145-6。
- 亀田龍吉『ルーペで発見! 雑草観察ブック』世界文化社、2019年3月15日、26 - 27頁。ISBN 978-4-418-19203-8。
- 近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著『花と葉で見わける野草』小学館、2010年4月10日、184 - 185頁。ISBN 978-4-09-208303-5。
- 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他編『日本の野生植物 草本Ⅱ 離弁花類』平凡社、1982年
- 田中孝治『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』講談社〈ベストライフ〉、1995年2月15日、102頁。ISBN 4-06-195372-9。
- 菱山忠三郎『「この花の名前、なんだっけ?」というときに役立つ本』主婦の友社、2014年10月31日、46頁。ISBN 978-4-07-298005-7。
- 米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)
関連項目
編集外部リンク
編集- ナデシコ科 - ウェイバックマシン(2006年5月15日アーカイブ分)(植物雑学事典)
- ハコベの仲間(植物図鑑・撮れたてドットコム)
- コハコベ(小繁縷)(草花写真館)
- ミドリハコベ(緑繁縷)(草花写真館)