うま味調味料

うま味を刺激する物質を人工的に精製した調味料

うま味調味料(うまみちょうみりょう)とは、うま味を刺激する物質を人工的に精製した調味料である。風味調味料とも。ナトリウムと結合した結晶のかたちで扱われ、砂糖のように、などに溶かして使うことが多い。主成分はグルタミン酸ナトリウムイノシン酸ナトリウムグアニル酸ナトリウム

初めて登場した、うま味調味料「味の素」(アジパンダ瓶、2017年

かつては「化学調味料」と称されていたが、1990年代から「うま味調味料」と言い換えられるようになった(詳細は後述)。現在は、加工食品において原材料名として、「調味料(アミノ酸等)」と表記されていることが多い。初めて登場したうま味調味料は、グルタミン酸ナトリウムを主成分として1909年明治42年)に発売された「味の素」である。

後述するように、欧州米国などでは科学的根拠が無いにもかかわらず、消費者の間でうま味調味料の健康に対する懸念が払拭できないと認識されたことから、あらゆる食品レストランで「NO MSG」(グルタミン酸ナトリウム不使用)を標榜する対応が行われており、物議を呼んでいる[1]

歴史

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1907年明治40年)、大日本帝国(現:日本国)の化学者池田菊苗が、「ヒト味覚には『酸・甘・塩・苦』の4つに加えて「うま(旨)味」が存在する」と提唱。その後昆布に由来する「うま味」の主成分が、「グルタミン酸」であることを発見した。これをナトリウム塩として精製したものが、1909年(明治42年)に商品名「味の素」で発売された。これが世界で初めて売られたうま味調味料である。

1920年代にはアメリカ合衆国にも輸出される。第二次世界大戦後にアメリカ陸軍が、兵隊たちに配るレーション缶詰)の味の不評に困り、改善策を模索した中で浮上して、実際に味が劇的によくなったことがわかった後、市販の加工食品外食でも使われるようになり、アメリカ社会に一気に普及した。

1968年、アメリカ合衆国でうま味調味料を大量に食べたことが原因で、中華料理店で食事をした人々の一部が、頭痛・疲労感など広範な症状を発症したとして、これが中華料理店症候群英語: Chinese Restaurant Syndrome, CRS)と名付けられた。中華料理店症候群の原因がグルタミン酸ナトリウムであると見られたため、これ以降、うま味調味料の安全性を巡った論争が始まった[2]

その後、中華料理店症候群と呼ばれる症状が、グルタミン酸ナトリウムの摂取によって引き起こされることは、数々の二重盲検法によって否定された[3][4][5]1987年にはFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)がグルタミン酸ナトリウムを『安全』と認定し、欧州医薬品庁アメリカ食品医薬品局食品安全委員会なども同様に『安全』との結論を出した。アンドリュー・ジマーン(Andrew Zimmern)など、アメリカの有名料理人がうま味調味料の使用を公表している。

発祥の地である日本だが扱いは悪い。先述の中華料理店症候群の騒動に加え、「化学調味料」の呼称が広く使用されていたことで(後述)、公害問題時代の「化学」嫌いの風潮がバッシングを煽り、マウスにグルタミン酸ナトリウムを大量に注射するような実験を元にした危険論が横行した[6]。危険論やバッシング、料理人の使用をタブーとする風潮が根強いが、料理研究家YouTuberリュウジがうま味調味料の使用を推奨し大きな話題を集めた[7]

うま味成分

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  • グルタミン酸:昆布、チーズ、醤油、味噌、野菜類
  • イノシン酸:肉、魚介類
  • グアニル酸:きのこ類

うま味調味料の種類・食品添加物

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欧州連合では、以下のうま味調味料を食品添加物(E番号)として定義している。

E番号 名前 目的 状況
E620 グルタミン酸 調味料 EU認可[8]
E621 グルタミン酸ナトリウム (MSG) 調味料 EU認可[8]
E622 グルタミン酸カリウム 調味料 EU認可[8]
E623 グルタミン酸カルシウム 調味料 EU認可[8]
E624 グルタミン酸アンモニウム 調味料 EU認可[8]
E625 グルタミン酸マグネシウム 調味料 EU認可[8]
E626 グアニル酸 調味料 EU認可[8]
E627 グアニル酸ナトリウム 調味料 EU認可[8]
E628 グアニル酸カリウム 調味料 EU認可[8]
E629 グアニル酸カルシウム 調味料 EU認可[8]
E630 イノシン酸 調味料 EU認可[8]
E631 イノシン酸ナトリウム 調味料 EU認可[8]
E632 イノシン酸カリウム 調味料 EU認可[8]
E633 イノシン酸カルシウム 調味料 EU認可[8]
E634 5'-リボヌクレオチドカルシウム 調味料 EU認可[8]
E635 5'-リボヌクレオチド二ナトリウム 調味料 EU認可[8]

他にE640としてアミノ酸の「グリシンとそのナトリウム塩」を認可しているがグリシンはうま味というより甘味を持つ。

製法

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製品や各国により製法の違いがあるが、廃糖蜜(原料植物から絞った液から砂糖を抽出した時の液体残留物)に微生物(菌)を加えてグルタミン酸を生成させ、それを水酸化ナトリウムと反応させてナトリウム塩とする方法が、製造費用が抑えられるため主流である[9]トウモロコシなどの澱粉酵母に与えて、原料の糖を作る場合もある。

インドネシアでは2000年タンパク質を分解する菌の栄養源を作る触媒として、由来の酵素を使用していたため、イスラム教の禁止食品(ハラームの項を参照)に認定され、発売禁止になった。その後製法を変えて問題を解決している[10]

批判

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グルタミン酸ナトリウムの摂取が、病的な肥満高トリグリセリド血症、高インスリン血症、インスリン抵抗性脂肪肝につながるという研究がある[11][12]。しかし、この様な研究に反対する形で、「長期的なグルタミン酸ナトリウムの摂取は、病的な肥満を引き起こさない」とする、味の素の研究所(Institute for Innovation, Ajinomoto Co. Inc.)の論文も出されている[13]1968年、グルタミン酸ナトリウムの摂取により、頭痛顔面紅潮発汗疲労感、顔面や唇の圧迫感などの症状が出ると言われている「中華料理店症候群」が、権威のある医学論文雑誌の『The New England Journal of Medicine』に記事が掲載された。しかし、この症候群は、数々の二重盲検法によって試験された論文により否定されている[14][15][16]。この他、2002年(平成14年)に、弘前大学の研究グループによって、グルタミン酸ナトリウムの過剰摂取と「緑内障」の因果関係の可能性について報告されている[17][18]

「化学調味料」と「うま味調味料」

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化学調味料」という呼称は、昭和30年代にNHKが「味の素」の商標を放送内で扱うことを回避する目的で使用したのが最初といわれている[19]。業界団体である日本うま味調味料協会自身、1960年代後半から1985年(昭和60年)まで「日本化学調味料工業協会」と名乗っていた[20]

しかし1980年代、グルメブームにおいて「化学調味料不使用」と謳う店が増えるなか、現在の日本うま味調味料協会は「化学」という言葉から連想される「化学合成食品である」とか「非自然由来食品である」といった負のイメージの転換を図るため、「うま味調味料」という語を造り、その使用を提唱した。協会はこの理由を、味覚のひとつとしてのうま味が世界的に認められたこと、現在は天然原料による発酵法で製造されているため「化学」という語が製品の特性を正確に表していないとし、「化学調味料」よりも「うま味調味料」とした方が「料理にうま味を付与する」という製品の特性を良く表す、などとしている[21]。その後、1990年平成2年)に日本標準商品分類総務庁[22]が、1993年(平成5年)に計量法通商産業省[23]が、2002年(平成14年)に日本標準産業分類総務省[24]が「うま味調味料」の表記を採用した。現在では各種法令でもこちらの表記が使われている[19]。報道においては、共同通信社『記者ハンドブック』、NHK『新用字用語辞典』などが「うま味調味料」の表記を採用している。辞書においては『大辞泉』増補・新装版が「化学調味料」、『大辞林』第2版と『広辞苑』第5版が「旨(うま)味調味料」を見出し語としている。日本における加工食品の原材料名としては、調味料として「調味料(アミノ酸等)」などと表示される。それ以外の目的(栄養目的等)では「グルタミン酸ナトリウム」あるいは単に「グルタミン酸Na」と表記される場合が多い。

「化学調味料無使用」や「無化調」表記

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「うま味調味料」を使用しなければ「化学調味料無使用」「無化調」を標榜できるため、タンパク加水分解物などの人工的な調味料が使用されている場合がある。これらには原料を塩酸で加水分解反応を起こしたものが多い[25]

主な商品

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出典

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  1. ^ 「化学調味料」の誤解解きたい 味の素社長世界を巡る”. 日本経済新聞 (2019年4月27日). 2024年2月17日閲覧。
  2. ^ ロバート・ウォルク 著、ハーパー保子 訳「第4章 キッチンの科学」『料理の科学 1 素朴な疑問に答えます』(第1刷)楽工社、2012年12月20日、pp. 189-190頁。ISBN 9784903063577 
  3. ^ 吉川春寿、芦田淳編、「中華料理症候群」、『総合栄養学事典』、第4版、同文書院 ISBN 4-8103-0024-2
  4. ^ R.A. Kenney (1986). “The Chinese Restaurant Syndrome: An anecdote revisited”. Food and Chemical Toxicology 24 (4): 351-354. doi:10.1016/0278-6915(86)90014-1. ISSN 0278-6915. https://doi.org/10.1016/0278-6915(86)90014-1. 
  5. ^ Geha RS, Beiser A, Ren C, Patterson R, Greenberger PA, Grammer LC, Ditto AM, Harris KE, Shaughnessy MA, Yarnold PR, Corren J, Saxon A (2000). “Review of alleged reaction to monosodium glutamate and outcome of a multicenter double-blind placebo-controlled study”. J. Nutr. 130 (4S Suppl): 1058S–1062S . doi:10.1093/jn/130.4.1058S. PMID 10736382. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10736382/. 
  6. ^ ちまたにあふれる「うま味調味料」のウソを見破る[食の安全と健康:第6回 文・松永和紀]
  7. ^ 「そんなの無視しなよ」と言われても。料理家・リュウジがTwitterでアンチに反論し続ける理由
  8. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p https://www.food.gov.uk/policy-advice/additivesbranch/enumberlist#Others
  9. ^ 『食品の裏側2 実態編: やっぱり大好き食品添加物』安部司著(ISBN 978-4492223369 2014年3月 東洋経済新報社)(「調味料(アミノ酸等)」)驚くべきその製法
  10. ^ 宗教徒食”. 北海道新聞. 2014年1月1日閲覧。
  11. ^ http://www.nytimes.com/2008/08/26/health/nutrition/26nutr.html?_r=0
  12. ^ http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23620336
  13. ^ http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23727643
  14. ^ 吉川春寿、芦田淳編、「中華料理症候群」、『総合栄養学事典』、第4版、同文書院 ISBN 4-8103-0024-2
  15. ^ Kenny R. A., Food Chem. Toxic., 24, 351, 1986.
  16. ^ Geha RS, Beiser A, Ren C, Patterson R, Greenberger PA, Grammer LC, Ditto AM, Harris KE, Shaughnessy MA, Yarnold PR, Corren J, Saxon A (2000). “Review of alleged reaction to monosodium glutamate and outcome of a multicenter double-blind placebo-controlled study”. J. Nutr. 130 (4S Suppl): 1058S–62S . PMID 10736382. 
  17. ^ Ohguro, H.; Katsushima, H.; Maruyama, I.; Maeda, T.; Yanagihashi, S.; Metoki, T.; Nakazawa, M. Experimental Eye Research 2002, 75, 307-315. DOI: 10.1006/exer.2002.2017
  18. ^ Too much MSG could cause blindness - 26 October 2002 - New Scientist
  19. ^ a b 商品についてのQ&A - 味の素株式会社
  20. ^ 日本うま味調味料協会Webサイト - プロフィールの項
  21. ^ 化学調味料無添加表示:協会はこう考えます - 日本うま味調味料協会
  22. ^ 工業統計調査の分類について
  23. ^ 特定商品の販売に係る計量に関する政令
  24. ^ 日本標準産業分類
  25. ^ 食品中のクロロプロパノール類に関する情報 - 農林水産省

関連項目

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外部リンク

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