μPD7220
μPD7220(ミューピーディー7220。その他の呼称として High-Performance Graphics Display Controller 7220, NEC 7220, GDC 等)は直線、円弧、文字グラフィックをビットマップディスプレイに描画する機能を持つインターフェースコントローラーである。日本電気による設計・開発・製造であり、同社のN5200[1],PC-9800シリーズやAPC III、DEC Rainbowのオプションのグラフィックモジュール、Tulip System-1、エプソン QX-10、沖電気 if800 model 50に採用された。[2]
ワンチップに集積されたものとしては初期のグラフィックディスプレイコントローラーの一つで、ナンバー・ナイン・ビジュアル・テクノロジーのハイエンドビデオカードに採用されたように、低コスト設計を可能にした。[3]
μPD7220は1982年のインテルに続き1983年にはスタンダード・マイクロシステムズにセカンドソースされている[4]。
詳細
編集7220はNECインフォメーション・システムズ(NEC Information Systems、日本電気のアメリカ支部)によって発表された。1979年にプロジェクトが開始され、1981年に論文が発表された[5]。1983年までにNEC自身の初期のコンピューターに採用されたほか、DECやワング・ラボラトリーズのコンピューターにも採用された[6]。発表から1年後、ある記者は「7220 GDCチップはNECの競合企業ですら、それが優れているために拒むことができないデバイスだ。」とコメントした[6]。1983年にApple Lisaが発表されたとき、記者は「なぜ7220を採用しなかったのか?」という質問を挙げた[7][8]。 ブルース・ダニエルスは、部品点数を減らしてコストを削減するためにビットマップグラフィックを採用したと説明した。「7220もビットマップでは?」という記者の疑問に対し、 ウェイン・ロージングは、開発陣は7220を知っていたものの、設計が始まった段階ではまだ入手が困難であったことと、同等の機能を実現するには汎用ロジックで組んだ方が安価だったことを付け加えた。画面更新サイクルのうちの一定時間でしかディスプレイメモリにアクセスすることができないことも制約であった。[7]
派生品
編集- インテルへのライセンス品として82720(μPD7220のインテルでの名称)グラフィックディスプレイコントローラーがある[9][10]。1982年に発表され、インテルのGPUの中でも長く現行製品であり続けたうちの一つであった。[11][12]
- 東ドイツ(ドイツ民主共和国)は、U82720というコピーを生産し、ザイログZ80のコピーであるU880と共に使われた。[13]
- より高速なCMOSプロセス品のμPD72020がある。
- (μPD7220と互換性はないが)後継品として高速で16ビットインターフェースをサポートするμPD72120 Advanced Graphics Display Controller (AGDC)がある。Electronics Design誌において1987年の上位100製品の一つに選ばれた[14]。μPD72120と互換性があり動作クロックを8MHzから10MHzに上げ、かつ、機能強化したμPD72123[15]がある。
内部
編集7220では2本のI/Oチャネル、A0とA1が使われている。A0を読み出すと7220のステータスを取り出す。A1を読み出すと内部キューから1バイトを取り出す。7220の両レジスタへの書き込み、A1はコマンド、A0はキューへパラメータを書き込む[2]。デバイスは8ビットデータパスを持つ[16]。また、4MHzから5.5MHzのクロックで動作し、これは当時としては比較的高性能であった。[8]
冒頭で言及されている「98帝国」の初代機 PC-9801 に搭載された i8086 が描画する場合と比較してみる。 7220の描画速度は、直線、円弧の区別なく800nsec/ドットである。一方で、5MHz(=200nsec/クロック)で動作の i8086 で16ビットバスを持つ i8086 が、最もクロック数の少ないアドレッシングモード(=ベース又はインデックスレジスタによるインダイレクト)で1バイトデータをライトするだけでも 9+5 = 14クロック[17]を要する。14クロックの間に、7220は3ドット分の描画を済ませ、4ドット目に取り掛かっていることになる。i8086 が1ドット描画するためには、データをライトする前に、命令をフェッチし、データをロードし、計算するためのサイクルが必要となる。このことから、7220 に与えるパラメータが多い難点はあるものの、それを補って余りある描画速度を持っていると言える[18]。
脚注
編集- ^ 田辺皓正編著『マイクロコンピュータシリーズ15 8086マイクロコンピュータ』丸善株式会社、1983年4月30日、254頁。
- ^ a b Dampf, Guido (1986年). “Graphics with the NEC 7220: Direct access with Turbo Pascal”. 27 July 2013閲覧。 (Translation of "Grafik mit dem 7220 von NEC", mc, 1986, H11, pp. 54-65)
- ^ F.Robert A. Hopgood, Roger J. Hubbold, David A. Duce, ed (1986). Advances in Computer Graphics II. Springer. p. 169. ISBN 9783540169109 . "Perhaps the best known one is the NEC 7220."
- ^ ASCII 1983年4月号, p. 91.
- ^ Tetsuji Oguchi, Misao Higuchi, Takashi Uno, Michiori Kamaya and Munekazu Suzuki (February 1981). “A Single-chip Graphic Display Controller” (PDF). International Solid State Circuit Conference (IEEE): 170–171. doi:10.1109/ISSCC.1981.1156160 .
- ^ a b David Needle (March 21, 1983). “NEC's 7220 GDC chip allows high-resolution color graphics”. Info World: pp. 31–34 July 29, 2013閲覧。
- ^ a b Wayne Rosing, Bruce Daniels, and Larry Tesler (February 1983). “An Interview with Wayne Rosing, Bruce Daniels, and Larry Tesler: A behind-the-scenes look at the development of Apple’s Lisa”. Byte Magazine: pp. 90–114 July 29, 2013閲覧。
- ^ a b Hal W. Hardenberg (April 1983). “An Introduction to the 7220”. DTACK Grounded (Digital Acoustics): pp. 8–9 July 31, 2013閲覧。
- ^ Changon Tsay (January 1, 1986). A graphics system design based on the INTEL 82720 graphics display controller. University of Texas at El Paso
- ^ ASCII 1982年9月号, p. 63.
- ^ “Intel Corporation Annual Report” (PDF). Intel. (1982年) July 27, 2013閲覧。
- ^ (PDF) 82720 GDC Application Manual. Intel, reprinted from NEC. (July 1983) July 27, 2013閲覧。
- ^ “Integrierte Schaltkreise: Schaltkreis U82720”. Robotron Technik. July 27, 2013閲覧。 (in German)
- ^ “Graphics Display Controller simplifies programming” (PDF). Electronics Design: p. 106. (May 14, 1987)
- ^ “μPD72123 Advanced Graphics Display Controller II”. 2021年5月25日閲覧。
- ^ “µPD7220/GDC, µPD7220-1/µPD7220-2 Graphics Display Controller” (PDF). The data sheet. NEC (April 7, 1983). July 29, 2013閲覧。
- ^ 川村 清『PC-9801解析マニュアル[第0巻]』秀和システムトレーディング株式会社、1983年6月30日、335-336頁。
- ^ 浅野泰之、壁谷正洋、金磯善博、桑野雅彦『PC-9801システム解析(下)』アスキー、1983年12月1日、195-196頁。ISBN 4-87148-715-6。
参考文献
編集- 「ASCII 1982年9月号」第6巻第9号、株式会社アスキー出版、1982年9月1日。
- 「ASCII 1983年4月号」第7巻第4号、株式会社アスキー出版、1983年4月1日。
関連項目
編集外部リンク
編集- 小口哲司 (1981年). “1ドットを800nsで描画できるラスタ走査CRT用グラフィック・コントローラLSI - 日経エレクトロニクス1981.10.12” (PDF). Oguchi R&D. 2020年11月15日閲覧。
- 小口哲司他 (1987年). “μPD7220後継のグラフィックス・コントローラLSI, コピーや塗りつぶし機能を強化 - 日経エレクトロニクス1987.2.23” (PDF). Oguchi R&D. 2016年6月18日閲覧。