夢遊病の女
『夢遊病の女』(むゆうびょうのおんな、イタリア語: La Sonnambula)は、ヴィンチェンツォ・ベッリーニが1831年に作曲した2幕からなるイタリア語のオペラ(メロドラマ)。
次作の『ノルマ』とは対照的な性格を持つが、ともにベッリーニの代表作であり、カターニアにあるベッリーニの墓にはアミーナのアリア「Ah, non credea mirarti」の楽譜が刻まれている。
日本語の題は『夢遊病の娘』とも呼ばれる。
概要 編集
ウジェーヌ・スクリーブとJ.P. Aumerによるバレエ・パントマイムを元に、フェリーチェ・ロマーニがリブレットを書いた[1]。
1831年3月6日にミラノのカルカーノ劇場で初演された。主役のアミーナとエルヴィーノをそれぞれ当時の代表的なコロラトゥーラ歌手であるジュディッタ・パスタとジョヴァンニ・バッティスタ・ルビーニが演じた。初演は大成功であり、その年のうちにロンドンとパリでも上演されたが、いずれもパスタとルビーニが主役を演じている[1]。
もともとパスタとルビーニが歌うことを前提として作曲されたため、歌手は非常に高い音で歌うことが要求される[1]。
19世紀にはマリア・マリブランやジュゼッピーナ・ストレッポーニ、イギリスではジェニー・リンド(1847)やアデリーナ・パッティ(1861)の演じたアミーナが有名である[1]。
19世紀を通じて、イタリアではドニゼッティ『愛の妙薬』と並んで牧歌劇の代表作と見なされてきた。またヴィクトリア朝のイギリスではとりわけ人気が高かった[1]。
上演時間は2時間10分[2]。
登場人物 編集
- アミーナ(ソプラノ)- 孤児だが、テレーザの娘として育てられ、エルヴィーノと婚約する。
- エルヴィーノ(テノール)- 村の裕福な地主。
- ロドルフォ伯爵(バス)- 村の領主。
- リーザ(ソプラノ)- 宿屋の女主人。エルヴィーノが好き。
- テレーザ(メゾソプラノ)- 水車小屋の主、アミーナの育ての母。
- アレッシオ(バス)- 村の若者。リーザが好き。
- 公証人(テノール)
あらすじ 編集
19世紀はじめ、場所はスイスのある村。
第1幕 編集
第1場:村人たちがアミーナとエルヴィーノの婚約を祝っているが、宿屋の女主人であるリーザはアミーナに嫉妬する。アミーナは村人たちに感謝の歌を歌う。公証人、ついでエルヴィーノが現れる。エルヴィーノはアミーナに指輪と花を贈る。結婚契約が署名され、アミーナとエルヴィーノは愛の二重唱を歌う。
見知らぬ人物が村に現れる。彼は実は領主のロドルフォ伯爵だったが、村人は誰も彼のことを知らなかった。テレーザはロドルフォ伯爵に、この村は白い服の幽霊に呪われているから夜は家に帰らなければならないといい、人々は帰宅する。ロドルフォ伯爵がアミーナを好んでいるらしいと見たエルヴィーノは嫉妬からアミーナと喧嘩するが、やがて仲直りする。
第2場:リーザの宿屋に宿泊したロドルフォ伯爵は、窓から突然アミーナが入ってきたのに驚くが、すぐに夢遊病であり、テレーザの言っていた幽霊とは彼女のことであることに気づく。伯爵はアミーナを混乱させないように部屋の明かりを消して外に出る。アミーナはそのまま伯爵の部屋のベッドで眠る。
ロドルフォ伯爵の正体はすぐに村人にばれ、人々は伯爵にあいさつするためにやってくるが、部屋の中には女性の姿があった。リーザは事情を知っていたが、エルヴィーノの手を取って部屋にはいり、部屋の中を明かりで照らす。アミーナは目ざめるが、何が起きたかわからず混乱する。エルヴィーノほかの村人はアミーナが浮気したと思いこんで彼女を非難する。エルヴィーノはアミーナに結婚の破棄を宣言して去り、アミーナは気絶する。
第2幕 編集
第1場:村人たちはロドルフォ伯爵の城館を訪れ、エルヴィーノとアミーナの間の仲介をしてくれるように頼もうとする。エルヴィーノはまだ怒っており、かつてアミーナに贈った指輪を彼女の指から外して奪う。
第2場:テレーザの水車小屋のそばで、リーザはエルヴィーノと結婚しようとしている。ロドルフォ伯爵はアミーナが夢遊病であることを説明して止めるが、エルヴィーノは信じない。表の騒音を聞いたテレーザが出てきて、アミーナが眠っているから騒がないように頼む。リーザがエルヴィーノと結婚しようとしていることを知ったテレーザは、ロドルフォ伯爵の部屋で拾ったリーザのハンカチを出してみせる。エルヴィーノはリーザも浮気していたと思って幻滅する。
エルヴィーノはロドルフォ伯爵に対して、アミーナが夢遊病である証拠を見せろというが、そこにテレーザの水車小屋の屋根裏の窓から眠ったままのアミーナが出てきて、ランプを手にしたまま歩きはじる。そのまま橋を渡って村人たちの前までやってくる。彼女はエルヴィーノのために祈り、自分が指輪を奪われたこと、かつてエルヴィーノから花をもらったことを眠ったまま話し、しおれた花を取りだす。
エルヴィーノは指輪をアミーナの指に戻す。目をさましたアミーナにエルヴィーノは謝罪する。アミーナは再び喜びに満ちる。
主要歌曲 編集
- Viva Amina (村人の合唱)
- Tutto è gioia, tutto è festa (リーザのカヴァティーナ)
- Come per me sereno (アミーナのカヴァティーナ)
- Sovra il sen la man mi posa (アミーナのカバレッタ)
- Prendi, l'anel ti dono (エルヴィーノとアミーナの二重唱)
- Vi ravviso (ロドルフォのカヴァティーナ)
- A fosco cielo, a notte bruna (合唱)
- Son geloso del Zefiro errante (エルヴィーノとアミーナの二重唱)
- D'un pensiero, e d'un accento - Questo pianto del mio cor' (第1幕の終わりのアミーナとエルヴィーノのアリア)
- Ah, perchè non posso odiarti (エルヴィーノのアリア)
- De' lieti auguri a voi son grata (リーザのアリア)
- Signor Conte, agli occhi miei (四重唱)
- Ah, non credea mirarti (アミーナのアリア)
- Ah! non giunge uman pensiero (アミーナのカバレッタ)
バレエ 編集
1946年にバレエ・リュス・ド・モンテカルロでジョージ・バランシンの振付によってバレエとして上演された(当初の題は『夜の影』)。ヴィットリオ・リエティによる曲はベッリーニの音楽をもとにしており、夢遊病の女も登場するが、話はまったく異なる[3][4]。
脚注 編集
- ^ a b c d e Stanley Sadie; Laura Macy, ed (2009). “Sonnambula, La ("The Sleepwalker")”. The Grove Book of Operas (2nd ed.). Oxford University Press. pp. 577-579. ISBN 9780195387117
- ^ The Earl of Harewood; Anthony Peattie, ed (2000) [1922]. “La Sonnambula / The Sleepwalker”. The New Kobbe's Opera Book. Ebury Press. pp. 30-31. ISBN 9780091814106
- ^ La Sonnambula, New York City Ballet
- ^ La Sonnambula, The George Balanchine Trust
外部リンク 編集
- 『夢遊病の女』昭和音楽大学オペラ研究所 オペラ情報センター 。(日本での公演情報)