グジェゴルチク階層
グジェゴルチク階層(ぐじぇごるちくかいそう、英: Grzegorczyk hierarchy、発音:[ɡʐɛˈɡɔrt͡ʂɨk])は計算可能性理論に基づく関数の階層である。(Wagner and Wechsung 1986:43)。名称はポーランドの論理学者アンジェイ・グジェゴルチクに因む。グジェゴルチク階層に属す任意の関数は原始帰納的関数であり、逆に任意の原始帰納的関数はこの階層のあるレベルに現れる。この階層は関数値の増大の度合いを扱う。直観的にいえば、低い階層の関数はより高い階層の関数よりも緩やかに増加する。
定義 編集
まず自然数 i で添字付けられた関数族 Ei を導入する。まず次のように定義する:
- (ただし n > 1)
これらの関数からグジェゴルチク階層を定義する。 は n番目の階層であり、次の関数からなる:
- Ek (ただし k < n)
- ゼロ関数 (Z(x) = 0);
- 後者関数 (S(x) = x + 1);
- 射影関数 ( );
- (一般)合成関数 (もし h, g1, g2, ... と gm が に属すならば も同様)[note 1]; および
- 限定(原始)再帰 (もし g, h と j が に属し , , ならば、 f もまた に属す)[note 1]
換言すれば は を含み関数合成と限定原始再帰で閉じた最小の集合(閉包)である。
性質 編集
これらの集合は明らかに階層を成す。
実際これらは の閉包であって となっているからである。
これらは強い意味での包含関係が成り立つ(Rose 1984; Gakwaya 1997)。換言すれば
というのも、ハイパー演算子 は に属すが には属さないからである。
原始帰納的関数との関係 編集
の定義は再帰が限定 (ある j に対して )されていることと、 が明示的に導入されることを除けば 原始帰納的関数のクラス PR の定義に似ている。グジェゴルチク階層は原始再帰の強さを制限しているものと見ることができる。
この事実からグジェゴルチク階層に属す全ての関数は原始帰納的関数であること(すなわち )が示される。したがって
さらに全ての原始帰納的関数が何れかの階層に属すことも示される(Rose 1984; Gakwaya 1997)。つまり
また は原始帰納的関数のクラス PR の分割となっている。さらに各々の領域は潰れていない。
拡張 編集
グジェゴルチク階層は超限順序数に一般化できる。そのような拡張として急成長階層が定義される。それには、極限順序数に対する生成関数 を帰納的に定義しなければならない(後続型順序数に対しては とすればよい。) もし極限順序数 の基本列 を作る一般的な方法があれば、 生成関数は と定義できる。ところがこの定義は基本列を作る方法に依存する。Rose(1984)は任意の順序数 α < ε0 に対する基本列の一般的な構成法を提案した。
独自の拡張としては Martin Löb と Stan S. Wainer(1970)による Löb–Wainer 階層がある。
関連項目 編集
注釈 編集
参考文献 編集
- Brainerd, W.S., Landweber, L.H. (1974), Theory of Computation, Wiley, ISBN 0-471-09585-0
- Cichon, E. A.; Wainer, S. S. (1983), “The slow-growing and the Grzegorczyk hierarchies”, The Journal of Symbolic Logic 48 (2): 399–408, doi:10.2307/2273557, ISSN 0022-4812, MR704094
- Gakwaya, J.–S. (1997), A survey on the Grzegorczyk Hierarchy and its Extension through the BSS Model of Computability
- Grzegorczyk, A. (1953), Some classes of recursive functions, Rozprawy matematyczne, Vol 4, pp. 1–45.
- Löb, M.H. and Wainer, S.S., "Hierarchies of Number Theoretic Functions I, II: A Correction," Arch. Math. Logik Grundlagenforschung 14, 1970 pp. 198–199.
- Rose, H.E., "Subrecursion: Functions and hierarchies", Oxford University Press, New York, USA, 1984. ISBN 0-19-853189-3
- Wagner, K. and Wechsung, G. (1986), Computational Complexity, Mathematics and its Applications v. 21. ISBN 978-90-277-2146-4